やや専門的なニュースなのでごく小さくしか報道されなかったが、9月に宮津製作所と富士テクニカの合併が発表された。両社とも、自動車用ボディー金型の専門メーカーだ。

 ボディー金型は自動車の横腹になる鉄板をドスンと成型するものだから、非常に大きい。幅6メートル 奥行4メートル、高さ3メートルほどもある。

 大きな鉄の固まりを自動車のボディーの形に合わせて削って、凸型と凹型を作る。昔は機械の精度が悪かったので、大変だった。フライス盤やシェーパーというような工作機械で削るのだが、ある程度削った後はすべて手作業だった。

 私が通商産業省(現経済産業省)で金型担当課長になった当時、某メーカーを見学した際に、作業しておられる方に聞いたら、担当者は「約半年間はこの金型を磨き続けます」と言っておられた。私も20分ほどやらせてもらったが、いくら力を入れてゴシゴシやっても、ちっとも光らない。ものすごい辛抱強さが必要とされる作業だ。

 凸型はまだそれでもいくらか作業がしやすい。大変なのは凹型の方だ。非常に作業しにくい。凸型を磨くの2カ月、凹型を磨くのに3カ月。凸型と凹型のギャップが板の厚さ0.6ミリになるように磨き上げてゆく。

 最近は工作機械の精度が飛躍的に良くなったので、大型の金型も数日で完成するようだが、最後の仕上げは手作業が必要だ。「心を込めて磨き上げた金型から生産されるボディーは輝きが違う」と、社長は胸を張っておられた。

日本の「お家芸」が苦境に陥っている

 かつて自動車用ボディー金型は日本の「お家芸」とも言える分野だった。オギハラ、宮津、富士テクニカが「御三家」と呼ばれ、世界中の金型を作っていた。ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、クライスラー、ルノー、プジョー、フォルクスワーゲン、アウディー、メルセデス・・・、日本製の金型を使う自動車メーカーは数知れず。韓国企業とて例外ではなかった。

 日本の自動車メーカーも、少量は自社で作るが(技術力の維持と、コスト算定のため?)、大部分は中小専業メーカーに任せる。

 今もその形は変わらない。ボディー金型に限って言えば、中国・韓国に追い上げられてはいるが、まだまだ実力には大きな開きがある。

 それにもかかわらず金型専業メーカーの経営が苦しいのはなぜなのだろうか。理由は3つある。

 第1は日本企業の宿痾とも言われる過当競争だ。