2015年という年、ロシアは最初から最後まで西側による経済制裁の中にあった。
ただ、モスクワで暮らした者としての印象を言えば、西側による制裁を感ずることは少なく、日常生活への影響は制裁への対抗措置としてロシア政府により導入された輸入規制措置によるものがほとんどだったと言える。
今回は、経済制裁以降、ロシア市民の食生活がどのように変わりつつあるか、ご報告したいと思う。
レストラン「ラフカラフカ」
12月のある日、銀座で言えばみゆき通りとでも言おうか、都心の一等地ペトローフカ通りにあるレストラン「ラフカラフカ」で食事をした。
予約の取れない店として有名だが、それにはそれだけの理由がある。まず、使用する主たる食材はすべてロシア産で生産者が分かるもの、輸入品は使用しないというポリシー。それも愛国主義のためではなく、それが一番安心できる仕入先だから、という。
レストランに隣接した小さな売店では、彼らが契約しているロシア各地の農場から直接仕入れた有機野菜、酪農製品などが販売されている。ほとんどの客がレストランに行く前にこの売店に寄り、今日の料理に使用されている食材コーナーを覗く。
この店は、ワインとビールがすべてロシア産だということでも有名である。
ロシアワインは、ロシア政府が2006年春にグルジアワインの輸入禁止措置を発令してから、その代替品として注目を浴びるようになり、大いに品質改良も進んだ。
2013年にグルジアワインの輸入禁止が解除されたが、この間に知名度を獲得したロシアワインは、引き続き優秀なコストパーフォマンスをもってロシアでの人気は上昇している。
黒海沿岸の人気保養地アナパからクラスノダールにかけての丘陵地帯がロシア最大のワイン産地となっていて、国道を走るとワイナリーが次々と現れる様子は、まさにヨーロッパのワイン銘醸地を思わせる。
2000年頃までは当たり前だったソ連時代の古いワイン製造設備も、近年著しい新規参入企業の巨額投資のおかげで近代的なワイナリーに生まれ変わり、中には製造責任者にフランスから専門家を招き、まさにフランス型ワインを目指すワイナリーも出てきた。