本当に読むに値する「おすすめ本」を紹介する書評サイト「HONZ」から選りすぐりの記事をお届けします。

(文:秋元 由紀)

 “白馬に乗った王子様には掃除をすべき城がある”

 少子化や「女性の活躍」についてはたくさんの本が出ているが、本書は出だしにあるこのフレーズを見て続きを読まずにいられなくなった。

『「見えざる手」と「見えざる心」 ワーク・アンド・ファミリーのゆくえ』 (上智大学新書)
作者:平尾桂子
出版社:ぎょうせい
発売日:2015-09-11

 おとぎ話はたいてい、王子と姫が試練の末に結ばれ、その後ずっとお城で幸せに暮らしました、というところで終わる。物語としてはそれでいいのだが、本書はあえて王子と姫のその後を想像するところから始まる。考えてみれば、王子と姫はワーキング・カップルである。国を守りながらお城を維持し、お世継ぎとなる子を産み育てるには相当なお金やエネルギーがいるはずだ。

 現実の日本の社会でも、人はおとぎ話さながら、人生の伴侶とする理想の異性を見つけようとするという認識がまだまだ支配的だ。そんな願望を前提にした演出が雑誌にもテレビにもあふれている。しかし実際には、波乱万丈の恋愛を経て意中の人と意気投合し、互いの家族の了解も取りつけ、夢のような結婚ができたとしても、その後一生幸せでいられる保証はない。生計を立て、子どもを育てたり親の面倒を見たりしつつ老後に備えようとする毎日は、それなりに幸せであっても、「めでたし、めでたし」のイメージとはちがう。