文中敬称略
トランプを抜きついにトップへ
2016年米大統領選に向けた共和党候補指名争いに異変が起こっている。指名まで1年を切ったこの段階になっても各種世論調査では「政治経験ゼロ」組が元知事や連邦議員たちを押しのけて上位を占めているのだ。
当初泡沫候補と見られていた不動産王ダニエル・トランプ、黒人の元精神外科医のベン・カーソン、そして紅一点、ヒューレット・パッカード(HP)元最高経営責任者(CEO)のカーリー・フィロリーナの3人だ。
しかも10月後半に入って、カーソンがトランプを抜いてトップに躍り出た。
その理由は何か。なぜカーソンはそんなに人気があるのか。黒人なのに史上初の黒人大統領のバラク・オバマを徹底的に批判しているのはなぜか。
本書はそうした疑問を解くカギを提供してくれる1冊だ。
『A More Perfect Union:What We the People Can Do to Reclaim Constitutional Liberties』(より完璧な合衆国を目指して: われわれは憲法が保障する自由を取り戻すためになにができるか)
タイトル通り、カーソン自身が米国憲法、特に憲法修正に書かれている基本的人権、自由、正義について解説したものだが、行間にはカーソン自身の生きざま、政治思想、これまで歩んできた半生が滲みている。
いわば米国憲法を使った選挙キャンペーンのマニフェストといったところだ。
シャム双生児分離手術で一躍著名人に
カーソンがなぜこれほど人気があるのか。その最大の武器は、「米国で最も尊敬される医師」としての知名度だ。
中産階級下層の黒人家庭に育ったカーソンだが、幼い頃からその学力は抜きん出ていたようだ。
名門イエール大学を経て、ミシガン大学医学部に進み、医学博士号を取得。全米でも屈指のジョンズホプキンズ大学病院の小児神経外科にすんなりと勤め出す。
33歳で同病院小児神経外科部長になり、1987年には頭部が癒着したベトナム人のシャム双生児を分離する手術に成功して一躍有名になったのだ。