2015年のノーベル化学賞、発表の映像(YouTube)より

 日本人が受賞した生理学・医学賞、物理学賞に比べると、日本ではあまり注目されなかったノーベル化学賞。しかし、ノーベル委員会のメンバーがインタビューで、福島の原子力発電所の事故による放射線ダメージを直す仕組みもDNA修復だと言っていたことは、もう少し注目されるべきなのかもしれません。

 2015年のノーベル化学賞にはTomas Lindahl博士、Paul Modrich博士、Aziz Sancar博士が選ばれました。

 受賞理由は「DNA修復の仕組みの研究」。DNAが傷付いたときにどうやって直しているのか、についてです。

画像はノーベル財団サイトより

DNAは常に傷付いている

 遺伝子を構成するDNAは非常に重要な物質ですが、意外にも常に傷付いています。太陽からの紫外線、タバコに含まれる有害物質、細胞内の活性酸素などが、DNAにダメージを与えます。ノーベル委員会のメンバーは、発表のときにDNAの模型にタバコの煙を吹きかけるジェスチャーをしていました(冒頭の写真)。

 また、DNAの文字にあたる塩基がヒトには30億塩基対ありますが、細胞分裂するときにはこのすべてをコピーします。ただ、30億文字すべてを完璧にコピーするのは至難の業で、推定で10万分の1の確率でコピーミスが起きます。つまり、ヒトでは1回の細胞分裂で3万文字に変化が起きます。

 細胞内外からの攻撃、あるいはコピーミスによってDNAが傷付く、つまり文字が変化すると、出来上がるタンパク質(体内でさまざまな機能をもつ物質)が変化するときがあります。すると、私たちの体にも異常が現れたり、病気になったります。典型的なのは、がん。一部の神経変性疾患や加齢にも関係しています。

なぜ今年の受賞対象なのか

 DNA修復は、現在ではかなりのことが分かっており、大学生向け教科書でも必ずでてきます。