「魚の油は体に良い」
そんな魚の健康イメージを支えているのはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった「ω(オメガ)3脂肪酸」だろう。「頭に良い」とか「血液サラサラ」とか良いことばかり耳にするが、一体どこまで分かっているのだろうか?
「魚の油は本当に体にいいのか? そうならば、体内でどのように働いているのか」
これを確かめるため、従来とは異なるアプローチで研究を進めるのは、理化学研究所統合生命医科学研究センターの有田誠氏だ。近年、有田氏らの研究によって「新たなEPAの姿」が見えてきた。心不全の発症を抑制するEPA代謝物の存在が明らかになったのだ。
イヌイットの食生活から注目され始めた「魚の油」
ω3脂肪酸が大きく注目されるきっかけとなったのは、1960年代にグリーンランドに住むデンマーク人とイヌイットの人々を比較した疫学調査だ。この調査では、イヌイットは心筋梗塞になるリスクが極めて低いことや、リウマチのように免疫細胞が自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患などにおいても、発症率が低いことが明らかになった。
血液を調べた結果、明らかになったのは、デンマーク人と比べ、イヌイットの血液では、DHAやEPAといったω3脂肪酸の割合が高いことだった。反対に、デンマーク人で多く、イヌイットでは少なかったのはアラキドン酸などの「ω6脂肪酸」だった。
ω3脂肪酸とω6脂肪酸は、いずれも栄養として摂取しなければならない「必須脂肪酸」だ。デンマーク人とイヌイットにおける両者のバランス差を生み出していたのは、食事だった。デンマーク人が牛肉を食べるのに対し、イヌイットの主食はアザラシ。そのアザラシの餌が魚、というわけだ。
「どうもこれが急性心筋梗塞のような突然死を防ぐ要因になっているのではないかと考えられたわけです。“良い油・悪い油”という考え方が生まれたのも、この頃からでしょう」と有田氏は話す。