野田佳彦財務相は9月15日午前の緊急記者会見で、「為替相場の過度の変動を抑制するため、為替介入を実施した」「10時半に財務省から日銀に要請をし、35分にはおそらく介入をしていると思う」と述べて、円売りドル買い介入を実施したことを公に認めた。円売り介入の実施は2004年3月16日以来、6年半ぶりのことである。
また、白川方明日銀総裁は談話を公表。「日本銀行としては、強力な金融緩和を推進する中で、今後とも金融市場に潤沢な資金供給を行っていく方針である」とした。
介入が実施されたタイミングは、ドル/円相場が82.87円をつけて、前日のニューヨーク市場で記録した82.92円を割り込んだ直後とみられている。また、前日9月14日に民主党代表選が終了したことで、為替介入を実施するにあたって選挙戦・政策論議に配慮する必要がなくなったことも、介入実施のタイミングに微妙に影響したと考えることができる。
マスコミ各社の報道によると、介入は断続的に実施されており、ドル/円相場は午後0時30分時点で84円90銭近くまで円安ドル高に動いた。2円ほどの幅で円安方向に押し戻した形。ユーロ/円相場は110円台に乗せた。市場が予期していなかったタイミングでの介入の初期段階としては、相応の成果が上がったと言えるだろう。
ただし、今回の円売り介入は米国との協調介入ではなく、日本単独での実施であることを、野田財務相が認めている。同財務相は上記の記者会見で、「必要な関係先とは緊密な連携は取っている」と発言。仙谷由人官房長官は記者会見で、「少なくとも欧米には理解を求める行動を取っている」とした。これより前、菅直人首相は9月10日の民主党代表選討論会で、「日本が何らかの行動を取ったときにネガティブなことは言わないでほしいと、いろいろやっている」と述べていた。ドル/円での介入の場合に相手方になる米国で為替政策を主として所管している財務省から、黙認を取りつけることができたということなのだろう。
野田財務相は今後の対応について、「今後の為替マーケットの動向を注視しながら、必要なときには介入も含めて断固たる措置を取っていきたい」と述べていた。また、仙谷官房長官は、「今後とも、引き続き為替の動向について注視し、適宜適切に為替介入を含めた断固たる措置を取ろうと、官邸を含めてそういう考え方で来ている」と述べた。これらの発言内容からみて、為替介入は9月15日で終わりということではなく、今後も状況次第で継続実施の構えであることが読み取れる。
とはいえ、為替市場の取引規模からみて、単独での円売り介入の効果には限界があり、持続性は伴いにくいというのが、一般的な見方である。そこで当面の焦点になってくるのは、米国の経済指標だと、筆者は考えている。
米国経済が急激に悪化して「日本型デフレ」に陥るのではないかといった、行き過ぎた悲観論が市場で広がった後、底堅さを示す経済指標や早期追加緩和に否定的な当局者発言などが出てきて、「思惑・期待・ムード」先行の長期金利急低下には現実の経済がキャッチアップしてこないことが明らかになり、米長期金利は反転急上昇した。しかし、ドル/円相場については、日本が円売り介入に動けるのかどうかを試そうとする雰囲気が続いていたこともあり、そのまま流れが変わることなく推移していた。今回の円売り介入実施によって、そうした円高余地を試す流れにとりあえず一区切りがついた上で、米国で強めの(あるいは思ったほどは弱くない)経済指標が出てくる場合には、米債券市場ですでに見られたのと同じような流れの変化が、為替市場で現実化してくる可能性がある。