このところモスクワの街中を歩くと至る所で道路工事や公的施設の改修工事に遭遇する。何ゆえ今さらそんなところを改修しなければならないのか首をひねる現場が多いうえ、地下道などは改修前と改修後でいったいどこを改修したのか分からない。
要は公共工事で少しでも景気を浮揚させようという政府・市当局の思惑であろうか。
7月下旬のアレクセイ・ウリュカエフ経済発展大臣の発言によれば、ロシアの2015年上期のGDP(国内総生産)成長はマイナス3.4%、通期ではマイナス2.6-2.8%になる見通しであった。
その後、8月10日に国家統計局から速報値が発表され、2014年第2四半期の成長率は前年同期比マイナス4.6%、第1四半期のマイナス2.2%からさらに悪化した。
このようにロシアの景気低迷は明らかだが、一方で今年初めに想定されていた数値に比べると大幅に改善している。もちろん、低水準だった前年の裏要因を考慮する必要はある。
ハトとタカの両方を経験した大臣
ウリュカエフ大臣は2013年に経済発展大臣(日本で言えば経済産業省に相当する)に就任したが、前職は2004年からロシア中央銀行の金融政策担当の第1副総裁、事実上のナンバーツーだった。
ロシアの経済発展省はいわゆるハト派(金融緩和賛成)、ロシア中銀は超タカ派(金融緩和反対=インフレ抑制至上主義)なのだが、その両ポジションを経験した同氏のコメントに対して筆者は比較的信頼を置いている。
市中のエコノミストの分析でもロシア経済が昨年末に想定されたほど壊滅的な状況には陥っていないとの見方が強い。
もちろん、ロシア経済に回復の兆しが見えているわけでもない。これまでの経済成長の原動力だった国内消費は前年比1割近く、投資もマイナス5%を下回る前年比大幅マイナスが続いている。
工業生産はルーブル下落によって1998年、2008年の経済危機時と同じように輸入代替が進み、食品や軽工業など回復を示すセクターがないわけではないが、全体としてはマイナス5%前後の減速が続いている。
他方、雇用情勢は安定しており(6月の失業率は5.4%)、国内の金融システムも平穏である。それどころかロシア中銀はこの不況を奇貨として、国内の問題銀行の一掃に取りかかっているほどだ。