政府系投資会社「1MDB(ワン・マレーシア・デベロップメント)」に絡む自らの公金横領疑惑で与野党を含む反対勢力から攻勢をかけられていたマレーシアのナジブ首相。
ここにきて、ムヒディン副首相(当時)を更迭するなど、現職首相の絶対的権力を振りかざし、強権を次から次へと発動、反対勢力や国内外メディアを封じ込めた(参照記事)。
「ナジブ首相は強固だ」(政府関係者)と言われ、反ナジブ急先鋒のマハティール元首相ですら「私のところに来るナジブ批判の訪問者が激減した」と、現職首相の権力に甘んじている様子だ。
一方、当のナジブ首相はと言うと、1988年にアンワル元副首相を副首相のポストだけでなく与党のUMNO(統一マレー国民組織)副総裁からも解任した当時のマハティール同元首相ほどカリスマ性はない。
そのことを象徴するかのように、副首相解任後、ナジブ首相はムヒディン副首相のお膝元であるジョホールに急遽出向き反対勢力の「リベンジ」を警戒するなど、火種はくすぶったまま。
またナジブ首相は8月1日のUMNO地域会合で、「白人や外国人がマレーシアの内政に干渉し、将来を決める権利はない」と人種差別的な発言を行い、欧米など国際社会から東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国としてのかじ取りに懸念が高まっている。
イメルダ夫人の再来?
そうした中、“影の最高権力者”と言われ、自らも公金横領疑惑にさらされ、フィリピンのイメルダ夫人の再来かと揶揄されるロスマ夫人への批判もくすぶり始めている(右は副首相更迭などの内閣改造後、マレーシア国内で出回った影の新内閣メンバー表)。
7月30日、英国のデービッド・キャメロン首相がマレーシアを訪問、ナジブ首相と首脳会談を行った。
英国への投資拡大やIS(イスラム国)への対応についてなど極めて実務的な内容だったが、マレーシア政府は、国を震撼させている「1MDBスキャンダル」へ質問が及ばないよう記者をシャットアウト、記者会見は実施されず、ビジネスライクな会談に終始させるようお膳立した。
しかし、首相官邸で2人きりになった時、キャメロン首相は「汚職撲滅、ビジネス社会の透明性、さらには報道の自由や人権の保護重視を説き、開放的な経済と社会の実現を促した」(英国政府関係者)という。
また、獄中にいるカリスマ的野党指導者のアンワル元副首相の現況への懸念も強調(英国政府関係者)するとともに、野党党首、市民活動家や人権派弁護士、ジャーナリストとも面会し、マレーシアの独裁化に懸念を示した。
上述のナジブ首相の人種差別的発言は欧米メディアだけでなく、キャメロン首相の「反ナジブ」とも取れる行動への憤りとも捉えられる。