新国立競技場(ザハ・ハディド改良案)の完成イメージ(新国立競技場ホームページより)

 一体、どこに、誰に怒りをぶつけたらいいのだろうか。国民の評判がすこぶる悪かった新国立競技場について、7月17日、安倍首相は「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで見直す」と表明した。日本スポーツ振興センター(JSC)の有識者会議でゴーサインが出てからわずか10日目の白紙発言である。

 この意図は見え見えだ。安保法制が衆議院を通過したが、法案への国民の批判は依然として大きく、深刻な支持率の低下に直面していたからだ。

白紙決定するも安倍首相の支持率は上がらず

 安倍首相は、「1カ月ぐらい前から検討していた」と答えているが、これは到底信用できない。有識者会議には、森喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、五輪組織委員会)会長、舛添要一東京都知事らに加えて、下村博文文科相、遠藤利明五輪相の2人の閣僚が参加しているのである。この2人は、2520億円の新国立競技場建設計画を了承しているのである。まさか、この2人を除いて「検討していた」というわけではなかろう。

 安保法制への批判が根強いだけではなく、それに加えて新国立競技場をめぐって国民の怒りが沸騰している現状に危機感を抱いたからである。当然の危機感であったと思う。もしこのまま、原案通りに推進するという対応をすれば、安保法制にプラスして新国立競技場問題でも、安倍内閣への怒りが集中したことであろう。

 政治の世界は「一寸先は闇」と言うが、下手をすれば安倍政権の命取りにもなりかねなかった。