東京タワーからの眺望(ウィキペディアより)

 「資金の少なきを憂うなかれ、信用の足らざるを憂うべし」

 近江商人の商売十訓の中にある言葉である。近江商人の言葉や逸話は商売の心理の根幹について示唆するものが多く、時代を超えて経営の気づきを与えてくれる。

 資金はなくとも信用が得られれば、徐々に資金も増えていく。しかし、資金はあっても信用を失えば、資金は途端に減っていく。信用を得ること、それがビジネスの肝となる。

 私が独立して間もない頃、ある会社から営業を受けた。初期費用80万円と月額30万円を払えば、営業代行をしてくれるという。具体的にどのような営業代行をするかについての手順の説明を受けた。

 こちらの現状や不満、ニーズについては聞くことなく、一方的に説明が行われた。しかし、実際には誰が営業を担当するのかについての説明はなかった。説明後、先方はこう言う。

肝心な説明は全くなし

 「いかがでしょうか?」

 いかがでしょうか、と言われても、この説明だけでは検討することすら難しい。この契約にかかるコストは営業パーソン1人を雇える金額だが、担当者に会わないまま営業代行を依頼することは、本人に会うことなく新人を採用し営業を担当させるようなものである。

 その担当者の雰囲気、身だしなみ、言葉遣い、顔立ちも分からなければ、どれだけ熱心に営業してくれるのか、自社と同業の会社についてどれだけの営業実績を上げているのかも分からない。

 営業代行の手順は理解できても、実際にどのような人が担当するのかという肝の部分についての情報提供がない。

 この点について質問してみると、担当者は契約後に決めるため現時点ではまだ決まっていない、とにかく信頼してください、とのことであった。

 私は肝となる部分の情報提供もないまま、初対面の相手に「信頼してほしい」と言うその姿勢は、営業のプロとして失格ではないかと感じ、お断りした。