1人暮らしを始めたころ、雨の日がとても嫌いでした。

 現在のようにSNSが普及していなかった当時。誰とも話をせずに終わる日もあり、初めての孤独感を味わっていました。

 さらに雨が降り始めると、その音が自分の部屋と周囲を分断しているように聞こえ、孤独感がより増していき・・・。

 今でも、雨が降ると、なぜかその当時を思い出します。

 そして、1人でいる時間をもっと大切にしておけば良かった、と後悔します。意味もなくテレビのバラエティー番組を見ているくらいだったら、その時間をもっと読書に費やすべきだった、と。

50年前、日本の将来を心配していた数学者がいた

 その当時の少ない読書時間の中で、今も深く印象に残っているのが、『春風夏雨』(岡潔著、角川ソフィア文庫)です。

『春風夏雨』(岡潔著、角川ソフィア文庫、 648円、税込)

 「多変数解析函数論」という舌を噛みそうな数学の分野の研究で、世界に名を轟かせた著者。本書は、思想家でもあった著者が芸術論から歴史論、科学論まで多岐に渡って論じた随筆集です。

 学者が著者、と聞くと、難解な内容を想像し、手が伸びないかもしれません。

 しかし、本書は違います。

 例えば、「読書についてよく聞かれますが、私はおもしろいから読むのでして、おもしろくなければ決して読みません」