JA全中の万歳章会長が辞任の意向を示したことが大きなニュースになっています。

 “農業業界”の誰もが驚く万歳会長の辞任意向表明は、政府の農協改革案に逆らいきれなかった「敗北」の責任を取ったと見るメディアが多いようです。ご本人もそう思っておられるのかも知れませんが、本当に万歳会長は敗北したのでしょうか?

「改革の常識」を疑ってみる

 シカゴ大学の若手経済学者、スティーブン・レヴィットらが書いた『ヤバい経済学』(東洋経済新報社)という本があります。日常生活から裏社会までこの世の問題を、経済学的アプローチの1つである「インセンティブ」で説明しようとする本です。この本が面白いのは、様々な通説を経済学的アプローチでひっくり返すところにあります。

 1990年代にアメリカのティーンエイジャーの犯罪発生率が下がったのは、景気が上向いたからでも、銃規制などの犯罪抑止策がすすんだからでもなく、20年前に中絶が合法化されたからだといった、通説に反するユニークな分析が書かれています。

 巷には「農協は日本の農業の足を引っ張る存在だから改革しなければならない」といった話があふれています。当連載ではその根拠や改革案について、『ヤバい経済学』とは別の視点で何度も疑問を呈してきました。

 誤解がないように言っておきますが。農協に改革は必要ないと言っているのではありません。農協を完全に否定することからスタートするのが間違いだと言っているのです。

 今回、全中から単協(地域にある地元の農協)に対する監査権、指導権を剥奪する改革が実現したわけですが、それ以外の改革案が仮に実現したらどうなるかを考えてみましょう。