本記事は3月18日付フィスコ企業調査レポート(アーバネットコーポレーション)を転載したものです。
執筆 客員アナリスト 柴田 郁夫

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販売価格上昇と販管費圧縮で2Q利益は計画を上振れ

 アーバネットコーポレーション<3242>は、東京23区駅10分以内での投資用ワンルームの開発・1棟販売(卸売)を基軸事業としている。用地取得からマンション開発、そしてマンション販売会社への1棟販売までを手掛けており、設計・開発に特化しているところに特徴がある。設計事務所からスタートしたデベロッパーとして、機能性やデザイン性に優れた「ものづくり」や、駅近の好立地へのこだわりが入居者からの高い支持を受けることによる空室率の低さとともに、従来からの投資家に加え、年金受給に不安を抱える新たな個人投資家や円安に誘導された海外投資家の参入による堅調な需要に支えられて投資用ワンルームマンションの業績は好調に推移している。

 2015年6月期第2四半期累計決算は、売上高が前年同期比33.5%増の4,831百万円、営業利益が同36.2%増の496百万円と大幅な増収及び営業増益となった。また、期初予想との対比では、売上高が若干計画を下回ったものの、営業利益は計画を大きく上回った。想定していたとおり、地価の上昇や建設資材の高止まりが利益を圧迫したものの、販売価格が想定よりも若干上昇したことや販管費の大幅な圧縮が期初予想を上回る営業増益に寄与した。

 同社は、2015年6月期の業績予想について2度の増額修正を行った。期初予想よりも販売価格が上昇したことや販管費の圧縮が可能となったことに加えて、2016年6月期の売上計上を見込んでいた2015年5月竣工予定物件の店舗部分が当期計上することとなったことが要因である。修正後の業績予想は、売上高が前期比12.5%増の11,800百万円、営業利益が同34.9%増の1,600百万円と増収増益基調が継続する見込みである。

 同社は、投資用ワンルームの根強い需要を背景として好調な業績が見込まれる一方、業界を取り巻く環境変化などを踏まえ、次の成長ステージに向けた積極的な経営施策に着手した。具体的には、海外投資家に対する直接分譲の模索(既に2物件の1棟販売契約を締結)、開発地域の拡大と強化、分譲物件の平準化の3点を掲げており、一層の業績拡大と利益の確保、並びに安定した高配当の実現を目指している。

 また、同社は、2015年2月に戸別販売事業及び賃貸事業、マンション管理事業に関わる子会社を設立することを決定した。基軸事業であるB to Bを親会社に残し、B to Cの分野を子会社にて取り込むことにより、将来に向けたグループでの事業拡大が目的とみられる。

Check Point

●デザイン性や機能性に優れた「ものづくり」による差別化
●来期の自社開発物件の販売予定戸数として16棟683戸を確保
●子会社を設立しグループ全体の収益力の底上げを図る

会社概要

東京23区内を基盤に投資用ワンルームを開発・一棟販売

(1)事業内容

 同社は、東京23区内を基盤として投資用ワンルームの開発・1棟販売(卸売)を基軸事業としている。用地取得から不動産販売会社への卸売までを手掛けており、設計・開発に特化しているところに特徴がある。設計事務所からスタートしたデベロッパーとして、機能性やデザイン性に優れた「ものづくり」や、駅近の好立地へのこだわりが入居者からの高い支持を受けるとともに、将来の年金受給などに不安を抱える個人投資家からの堅調な需要に支えられて業績は好調に推移している。

 事業セグメントは、「不動産事業」の単一となるが、サブセグメントとして「不動産開発販売」「不動産仕入販売」「その他」の3つに分類される。「不動産開発販売」は、投資用ワンルームマンション「アジールコート」を中心として、分譲用ファミリーマンション「グランアジール」やコンパクトマンション「アジールコフレ」も手掛ける。なお、分譲用ファミリーマンションやコンパクトマンションは、現在までのところ3年に2棟の開発にとどめており、販売は自社で行っている。「不動産仕入販売」は、他社が開発した新築残戸物件の販売や不動産仕入販売等を行っている。「その他」は、不動産仲介及び不動産賃貸業となっている。2014年6月期の実績では、「不動産開発販売」が売上高の約97.5%を占めている。

 投資用ワンルームの販売は、提携する販売会社への1棟販売(卸売)が基本であるが、信頼性が高い販売会社を厳選したうえで緊密な関係を築いている。また、販売手法の多様化を図る目的から、引き合いが強くなってきた海外投資家に対する直接分譲についても試行的に着手した。

 また、2015年2月には、戸別分譲事業及び賃貸事業、マンション管理事業に関わる子会社(株)アーバネットリビングを設立することを決定した(操業予定日は2015年7月1日)。基軸事業であるB to Bを親会社に残し、B to Cの分野を子会社にて取り込むことにより、将来に向けたグループでの事業拡大が目的とみられる。

リーマンショックの厳しい環境下、販売ノウハウを蓄積

(2)会社沿革

 同社は、一級建築士である現社長の服部信治(はっとりしんじ)氏によって1997年7月に設立された。マンション専門の設計会社に設計技術者として勤務していた服部氏は、自らマンションの企画・開発を行うことを目的として独立した。

 設立当初は、企画や設計、コンサルティングを中心に実績を積み上げ、設立して3年後の2000年12月に、当初の計画どおり、マンション開発販売事業を投資用ワンルームマンションでスタートさせた。

 投資用ワンルームを主力としたのは、その頃からJリートや不動産ファンドなど、賃貸収益物件への投資事業が拡大し始めたことや、自社開発物件を販売専門会社へ任せられる製販分離型の業界構造となっていることが、少数精鋭の経営を目指していた同社にとって参入しやすかったことによる。同社の得意とする設計・開発に特化したことで、入居者ニーズを実現した人気の高い物件を開発できたことに加えて、都内のワンルームマンションに対する需給ギャップ(需要が供給を上回る状況)や個人投資家からのニーズの拡大など、外部環境も同社の成長を後押しして、2007年3月にはJASDAQ市場へ上場を果たした。2008年のリーマンショックによる金融引き締め時には開発物件の凍結を余儀なくされたが、損失を1期に集中することと、金融機関やゼネコンとの良好な関係を続けることを前提とした徹底的な資産縮小の経営計画のもと、営業部門を新設して他社物件の買取再販事業に全社を挙げて参入したことにより、厳しい環境を乗り切ることができた。その時期に培われた販売ノウハウなどは、現在の買取再販事業や分譲用マンション等の販売にも活かされている。