ロシアによるクリミアの併合・ウクライナへの介入、中東におけるイスラム国(IS)の暴力と破壊の蛮行、中国の海洋進出による地域覇権の野望の顕在化など、危機がグローバルな広がりを見せ、国際社会は激動の時代に入ってきたようだ。

冷戦終結とリベラルな理想主義型の世界観

親露派が東部の要衝制圧 ウクライナ大統領、平和維持軍派遣を要請

ウクライナ東部デバルツェボから撤退する政府軍の兵士ら(2015年2月18日)〔AFPBB News

 勢い、飛び込んで来る様々な事象・事件に振り回されがちになるが、このような時にこそ一歩退いて、歴史的あるいは長期的な視点で世界の動向を見極めることが重要であろう。

 冷戦が終わり、米国の意識を代弁するかのように、フランシス・フクヤマ氏の『歴史の終わり』(渡部昇一訳、三笠書房、1992年)が発表された。社会主義陣営が瓦解し自由・民主主義陣営が戦いの最終勝利者となったいま、もはや本質的に「対立や紛争を基調とする歴史」は終わったという主張であった。

 それと符合するように、欧州でも、英国の外交官であるロバート・クーパー氏の『国家の崩壊』(北沢格訳 、日本経済新聞社 、2008年)に代表される脱近代(ポストモダン)の思想が現れた。

 マーストリヒト条約の調印による欧州統合(EU)の進展とグローバル化の動きがこれを後押し、日本を含めた欧米先進国において持てはやされた。

 脱近代の思想とは、概ね、(1)国家対立、民族紛争などを、またそもそも国民国家とか国家主権という概念を近代(モダン)世界のものとみなし、(2)グローバル化が進み、近代を乗り越えた今日の脱近代の時代においては、国家とか主権という観念そのものが過去のものとなり、(3)リアリストが唱えた国家や軍を中心とした伝統的な安全保障システムも過去のものになった。

 これからの国際関係は、道徳が重要で、国際問題は話し合いや国際法に従って解決でき、国際司法裁判所などの国際機関が画期的な意味を持つ、というものである。

 顧みれば、これに類する思想や考えは、過去幾度となく現われ、国際政治の現実の前に打ち消された。第1次世界大戦後、平和回復の歓喜とともに、国際連盟が創設され、国際協調が高々と謳われた。

 しかし、わずか20年後には第2次世界大戦が勃発した。終戦とともに、ベルサイユ体制の反省を踏まえて、国際の平和及び安全の維持を目的とした国際連合が創設された。間もなくして、東西冷戦が激化したが、国連は冷戦の解決には無力で、国家に代わってその役割を果たすことはできなかった。