ISIL(いわゆるイスラム国)による日本人人質事件は、アブ・バカル・バシル(バシル師、2010年にインドネシアで逮捕され収監中)が昨年11月、独房からISILへの支持を表明、「欧米と連携する日本も聖戦の標的」と認識を示した矢先に起こった*。
バシル師は、日本人を含む202人の外国人らが死亡した2002年のバリ島爆発テロの首謀者で、「ジェマー・イスラミア」(JI)を創設した東南アジアのイスラム過激派の精神的指導者である。
過激派によるイスラム国家樹立の動きは東南アジアにも
今回の事件をきっかけに、日本人が今後さらにテロリストにとって利用価値の高い格好の標的になる可能性が高くなったといっても過言ではない。
遠い中近東でなく、日本の近隣諸国で活動してきた東南アジアのイスラム過激派組織のJIは、バジル師ら中核メンバーが逮捕され弱体化しつつも、インドネシア、マレーシア、タイ南部、シンガポール、フィリピン南部、ブルネイにおけるイスラム国家樹立を目指している。
そして依然としてタイ南部のイスラム過激派によるテロやフィリピンの「アブサヤフ」による身代金目当ての誘拐事件に加え、インドネシアでは「東インドネシア聖戦士機構」(MIT)や「ジェマー・アンシャルット・タウヒッド」(JAT)によるテロ事件などが頻繁に発生している。
JIの残存勢力を含む同一派が復活を狙っているとも指摘され、日本にとっても対岸の火事ではない。シリアやイラクで勢力拡大するISによるプロパガンダが、こうした東南アジアのイスラム過激派の強硬なスローガンとなる危険性は、シャルリ・エブド襲撃事件でさらに高まっている。
同事件の容疑者、クアシ兄弟は、「『イエメンのアルカイダ」(AQAP)』の指示を受けた」と明かし、一方、ユダヤ系食料品店で人質を取り立てこもったアメディ・クリバリ容疑者は、自らを「ISILに所属する」と暴露した。
AQAPとISILは異なる組織だが、こうした勢力拡大を目論むイスラム過激派組織のテロ活動による覇権競争が表面化することは、同組織にジハーディスト(聖戦主義者)を送りこむ東南アジアのイスラム過激派を触発することにつながっている。
実際、前述のクリバリと共犯者でシリアに逃亡中の内縁の妻、アルジェリア系フランス人のアヤト・ブメディエンヌの2人は、実はマレーシアに滞在していた可能性があることが浮上。
マレーシアのカリド警察長官は「2人がマレーシアに入国した事実はない」と否定するが、欧米の情報筋は「偽装パスポートを使って入国した可能性がある」とし、「地元過激派の支援を受け、マレーシア北部のジャングルで軍事訓練を受けていた」とする情報もある。
さらに、ワシントン・ポスト紙上では、独自入手した裁判所に提出された記録で、2人が観光名所のペトロナスタワーやオバマ大統領も訪問した国立モスク、さらには東マレーシアで撮った彼らの写真が公開された(参考:ワシントン・ポスト記事)。
*最新号の週刊新潮(2月12日号)でも筆者指摘