フランスの週刊新聞社が襲われたテロ事件は、「表現の自由」を保障する民主主義社会への攻撃であり、風刺漫画に自動小銃で報復することを「神の使命」と考えるイスラム過激派の異質さを世界に示している。しかし、表現の自由、言論の自由が脅かされているのは、パリに限ったことではない。イスラム過激派の異質ぶりを強調すれば、自分たちの社会の健全性が保障されるというものではない。「表現の自由」とは何か、雪の舞う青森県弘前市に国際政治漫画家の山井教雄さん(67)を訪ね、意見を聞いた。

きっかけは2005年の「ムハンマド風刺漫画事件」

 襲撃された週刊新聞「シャルリエブド」を手に持って現れた山井さんに、事件の感想を尋ねると、「驚くよりも、ついに起きたか」と思ったという。シャルリ紙は、イスラム過激派も厳しく風刺し、彼らの犯行と見られる編集部への放火事件も起きていたからだ。そのきっかけは、2005年に起きた「ムハンマド風刺漫画事件」だったと、山井さんは語る。

「シャルリエブド」を手に持つ山井さん

 デンマークの日刊紙がイスラム教の始祖、ムハンマドを風刺する12枚の漫画を掲載した。偶像禁止の教えからムハンマドを描くことへの反発のうえに、教祖を侮辱されたとして、イスラム世界から強い反発が起き、各国のデンマーク大使館が襲撃されるなどの事件に発展した。

 欧州のメディアは、これに抗議する姿勢として、これらの漫画を掲載、シャルリ紙も特集のような形で、12枚すべての漫画を掲載した。その表紙は、「愚か者に愛されるのもつらい」とムンマドが頭を抱えている風刺画だった。「シャルリ紙は、このあたりからイスラム過激派に目を付けられるようになったのではないか」と、山井さんは言う。

 「日本のメディアはこの事件を大きく報じたが、私の知る限り、日本のメディアでこれらの漫画を掲載したところはない」と、山井さんは指摘した。世界のメディアは、この漫画を掲載するかどうか、それぞれで対応が分かれたが、日本のメディアは横並びで自主規制をした。ちなみに、ウィキペディアで「ムハンマド風刺漫画掲載問題」を引くと、12枚の風刺画の説明は出ているが、画像については「英語版の記事等を参照されたい」と書かれているだけだ。そこで英語版を見ると、12枚の漫画が掲載された紙面がちゃんと出ていた。