3年前、ドイツが脱原発を決めようとしていたころ、太陽電池の研究が専門の物理学者に話を聞いたことがあった。彼が見せてくれたアフリカの地図には、アルジェリアのところに大きさの違う小さな正方形が2つ、そして、そのお隣のリビアに豆粒のように小さな正方形が1つ、書き込んであった。
彼は言った。「この一番大きな正方形の面積のソーラーパークで世界中の電気が賄えます。その次の正方形ならEU全体の電気。そして、一番小さなのがドイツの全電気需要」。一番大きな正方形は1辺が約300km、豆粒の方は60kmくらいだったが、どれも皆、大きなサハラ砂漠の中ではとても小さく見えた。
サハラ砂漠の壮大な再生可能エネルギー計画
ただ、私は違和感を覚えた。その図は、太陽光の有効活用の可能性を示した象徴的なものにすぎないのだろうが、いったい何の意味があるのかと思ったのだ。「太陽光があれば、こんな小さな面積で世界中の電気さえ賄える」と思わせるためのトリックのような気さえした。
後で調べてみたら、案の定、これは小さな面積ではなかった。世界中の電気需要をカバーできる面積である1辺300km四方と言うのは9万km2で、およそ四国の5倍。豆粒の方は360km2だから、東京23区の6倍だ。
ところが、当時、この計画はすでに進められようとしていたのだ。
デザーテック・ファウンデーションという非営利団体がある。名前が表すように、砂漠の太陽と風エネルギーの高度な活用を目的としている。
デザーテックの構想というのは、サハラ砂漠に太陽光と風力の発電施設を作り、そこで発電した電気を、高圧直流ケーブルでヨーロッパ、アフリカに送電するというもの。これにより、将来的には、中東、北アフリカの大部分と、ヨーロッパの電力需要の15%を賄うというのが目標。
単純に計算すれば、そのためには1万3500km2の面積のソーラーパネルが必要となる。これは長野県の面積にあたる。
発案は2003年で、以来、多くの科学者、専門家、政治家がこのアイデアに携わった。科学的検証は、おもにドイツ航空宇宙センターが3年を費やして行ったという。
この案に賛同した企業が、Diiというコンソーシアムを作った。そして2009年、Diiとデザーテック・ファンデーションが一緒に、この遠大なプロジェクトを立ち上げたのだった。