日本に滞在していた間、ドイツの脱原発の進捗具合をよく聞かれた。はっきり言って、あまり芳しくない。ただ、芳しくないと答えるのが憚られるほど、日本でのドイツ信仰は強かった。ドイツは脱原発をやり遂げた凄い国であるという思い込みだ。
しかし、「ドイツにできることが、なぜ日本はできない?」という反原発派の論調はおかしい。何度も言うが、ドイツはまだ脱原発などしていないからだ。
ドイツを「脱原発のお手本」と崇めるのは間違っている
ドイツは、2022年までに脱原発をすると宣言し、そのために大いなる努力をしている。ただ、22年まであと8年と迫り、計画は予定通りにいきそうにないことが分かってきた。電気代ばかり上がっていくので、国民の不満も高い。
再生可能エネルギー(以下、再エネ)の電気は補助金で支えられているので、発電量はどんどん増えたが、それを必要なところに運ぶ送電線の建設も進まない。また、太陽光と風といった再エネはお天気に左右されるので、余るほどできる日があるかと思うと、突然、ゼロになる日もある。
だから、ゼロの日に備えて、既存の発電所を廃止することはできない。既存の発電所といっても、半分近く停まっている原発の分は火力で補っているので、なんのことはない、CO2も増えてしまった。
一方、頼みの綱の海上の風力発電は、技術上の問題や、環境・動物保護の問題があり、投資家が足踏みをしている。そんなわけで、今、ドイツ政府は慌てて、勇み足だった再エネ開発の目標値を下方修正し始めた。
それも、「これで電気代の値上げが止まるとは思わないでほしい」と、国民に引導を渡しながらの下方修正だ。「今、再生可能エネルギー法を改正し、その後、運が良ければ、ひょっとすると将来の電気代の上がり方が緩慢になるかもしれませんよ」という、とても控えめな話なのである。脱原発はいばらの道である。
こういうことを書くと、あたかも私が、3度のご飯よりも原発が好きな人間だと勘違いする人がいるかもしれない。あるいは、再エネ推進の敵?
しかし、私は再エネの足を引っ張りたいわけでもなければ、原発の信奉者でもない。そして、もちろん、ドイツの脱原発の失敗を望んでいるなどということもない。ただ、ドイツで何が起こっているかを、ちゃんと日本に伝えるのが自分の役目であると思い込んでいるだけだ。
私は、ドイツで進行している脱原発の試みは、大変重要なことだと思っている。もちろん、これまでの計画は少々理想が勝ちすぎており、非現実的なところがあったけれども、これから着々と必要な修正を行い、大成功とまではいかなくても、必ずや失敗ではないところに着地すると確信している。