米国での「尊厳死」という言葉の意味合いは、日本とは異なる。日本では「過剰な医療を施さない」「痛みで苦しませない」というニュアンスが強いが、米国の「尊厳死」とは、医師や専門家の幇助を受けて自殺する「安楽死」を指すことが多くなってきている。
今月の初め、ある動画がネット上で公開された。米国オレゴン州在住の29歳の女性が「尊厳死」を選ぶに至った過程を告白したものだ。いわば安楽死を予告するこの動画は大きな注目を集め、すでに300万人以上が動画にアクセスした。
ブリッタニー・メイナードさんは、進行性の早い脳腫瘍により、医師より「余命半年」と宣告された。死ぬまでの期間が激痛との戦いとなり、間もなく完全介護が必要になることを彼女は知る。
ブリッタニーさんは、昨年結婚したばかりだった。病気を発症したのは結婚後。彼女がこれまでの経過と闘病の様子を説明する画面の背景には、まぶしいほどの笑顔を見せる結婚式の写真や、世界の秘境を旅して回っていた頃の健康で意思の強そうな美しい彼女の写真が映し出される。だが動画の中の彼女は、治療の副作用で、元気だった頃とはまるで別人のようだ。
彼女は家族とともに多くの専門家に相談し、調べられるだけ調べたが、決定的な治療法は存在しなかった。今や、死が避けられないという現実を受け入れなければならない。「それなら自宅で愛する人たちに囲まれ、静かに平和に逝く。それを選択する権利が私にはある。そして、誰にも与えられるべき権利だ」。そして彼女は、10月末にオレゴン州で医師による自殺幇助を受けて命を絶つ覚悟をしたと語る。
彼女は死ぬために、それまで暮らしていたサンフランシスコから、尊厳死法のあるオレゴン州に移り住んだ。オレゴン州は、「医師による自殺幇助」を合法化した最初の州だ。同州で1997年に「尊厳死法」が施行されてから、現在では全米5つの州で自殺幇助が合法化されている。オレゴン州では、昨年までに752人の人が「尊厳死法」を利用して命を絶った。
個人の意思を尊重するオレゴン州の「尊厳死法」
今なおキリスト教的信念が根強い米国では、2つの「命」を巡る戦いがある。1つは「中絶」。もう1つは「尊厳死」。命は個人の選択か、それとも踏み込んではならない聖域なのか、米国でも国を二分した議論が続いている。