平和も戦争も政治のあり方だから、平和を希求するノーベル平和賞も政治的なメッセージである。今年のノーベル平和賞は、女子教育の権利を訴えてきたパキスタンのマララ・ユスフザイさん(17)と、児童労働問題に取り組んできたインドのイラシュ・サティヤルティさん(60)の二人に授けられた。

 そのメッセージは、子どもたちが教育を得たり、不当な労働を強いられないようにしたりすることが大人たちの責務だということ、つまり、子どもたちの人権への擁護ということだろう。

 しかし、より政治的なメッセージとしては、タリバーンというイスラム過激派への批判であり、さらに言えば、こうした不寛容な宗教に世界が屈してはならないという警告だと思う(かつてユスフザイさんは、女子教育の権利を主張したことでタリバーンに銃撃された)。

 17歳の少女にノーベル平和賞を与えるというノーベル賞委員会の決断には、宗教が不寛容な方向に暴走しているという強い危機感があるだろう。

 シリアの内戦から鬼子のように出てきた「イスラム国」(ISIS)もイスラム過激派だが、人質となった西欧の民間人を処刑、その映像をインターネットで公開するなど、不寛容さを世界に誇示している。また、欧米社会からISISに参加した若者の数千人にのぼり、その多くはイスラム圏からの移民の子どもたちだという。こうした動きに歯止めをかけたいという思いがマララの受賞を後押ししたのではないか。

製造業の衰退が世界の不安定化の一因に

 いつの時代にも不寛容な思想や宗教や運動はある。しかし歴史的に見れば、1990年以降の「冷戦後」の世界で米国がイラクのクウェート侵攻に反撃した湾岸戦争やユーゴスラビアの分裂に伴う地域紛争をきっかけに世界は不安定になり、2001年の9.11とその後のアフガン戦争やイラク戦争で国家、人種、民族、宗教などの対立が激化し、そのなかで相手を憎悪し、殺戮をいとわない不寛容な精神も広がった。