日本にとっての国家安全保障を改めて考えてみたい。

 日本国内の議論を見ていると、自国の安全や平和を論じるのに「日本に歯止めをかける」という側面が優先されている。本来、日本の安全や平和は、日本を取り囲む国際環境のあり方によってまず決められるはずである。だが最近の日本国内の集団的自衛権をめぐる国会論議では、「日本自身が暴走しないように」という内向きの姿勢ばかりが目立つ。日本の敵は日本なのか。日本を脅かすのは日本自体であるかのような思考である。

 日本の安全保障の論議では、まず外部から日本に影響を及ぼし得る要因を直視することから出発すべきだろう。私自身は、普段は米国の首都ワシントンに拠点を置き、米国側の政策や情報を踏まえながら日本を見つめている。外から日本を見ていると、そのことを特に強く感じるのである。

 そして、ごく客観的に見て、現在の日本は国家安全保障という点で、戦後でも最大の危機に直面していることを痛感する。国家の命運が問われる状態にある、と言っても、誇張ではない。

 国内情勢だけから見れば、今の日本は極めてうまくいっていると言える。安倍晋三首相の下、政治は近年でも珍しい安定と呼べる状態にある。経済も悪くない。社会も基本的に治安は良好と言えよう。国民の福祉や安全、豊かさも国際水準を超える状態を保っている。

 しかし国家の安全保障となると話はまったく異なる。国内の繁栄や安定とは対照的に、日本を取り囲む安全保障の国際環境は非常に厳しいのである。

 日本を外から見て、今の日本に最大の危険を突きつけているのは中国である。はっきりと「中国の脅威」と呼ぶべきだろう。加えて、このところ米国の日本への有事の防衛誓約がかつてない揺らぎを見せている。そうした中国と米国の状況が1つとなって、日本にとっての危機をさらに増幅させている。この深刻な現状を構造的に説明しよう。