9月23日、米軍はイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」を標的に、シリア領内で空爆を開始した。作戦にはサウジアラビアほか中東の5カ国も参加したという。F22ステルス戦闘機が戦闘に初参加したほか、F18空母艦載機、B1爆撃機による空襲に加え、洋上に展開した艦艇からも巡航ミサイル「トマホーク」を発射し、イスラム国が本拠を置くシリア北部ラッカなどを攻撃した。

出口戦略なき愚行を繰り返す?

米主導のシリア空爆、イスラム国の製油所・指揮系統が標的に

キプロス・リマソル近郊の英空軍基地で、イラク上空を飛行する任務から帰還し着陸態勢に入るトーネードGR4戦闘爆撃機(2014年9月27日)〔AFPBB News

 米国のバラク・オバマ大統領は空爆実施後、ホワイトハウスで「テロリストの安全な避難場所を許容しない」と声明を読み上げた。また「米国単独の戦いではない」と述べ、有志連合を通じた多国籍の軍事行動であることを強調した。

 オバマ大統領はこれまで、ジョージ・W・ブッシュ前大統領が実施したテロとの戦いを「出口戦略なき愚行」と非難してきたが、今回の作戦に出口戦略はあるのだろうか。

 今年5月28日、オバマ大統領は米陸軍士官学校卒業式で、今後の国際社会における米国の外交政策指針を演説した。「孤立主義はとるべきではない」と主張する一方、「平和や自由の追求は重要だがその実現に軍事力行使は必ずしも必要ではない」と述べた。

 最大の脅威は「テロリズム」との認識を示し、軍事力行使の条件を「自国の安全、国益、同盟国の安全保障が脅かされた時」とした。米国に直接の脅威でない場合、効果やコストを考慮した上で、「同盟国など他国と共に軍事作戦」を行うと述べた。今回の空爆作戦は、この外交政策指針に沿ったものといえよう。

 また、オバマ大統領は、軍事力行使の要件を次のように明示した。

(1)軍事介入は、米国の安全への脅威が明白で、国民の支持がある時のみ、最後の手段として実施。
(2)軍事力行使の際には、戦略目標を明確にし、圧倒的な兵力を投入し、早期終結をはかる。
(3)軍事力行使前に出口戦略を策定しておく。
(4)米国への脅威が不明確な場合、同盟国やパートナーと共に集団的に行動する。

 (1)~(3)は、コーリン・パウエルが国務長官時代に提唱した「パウエル・ドクトリン」とほぼ同じであり、「パウエル・ドクトリン」のオバマ・バージョンと言える。

 オバマ大統領は9月24日の国連総会の一般討論演説で、「イスラム国」を「打倒しなければならない」と決意表明した。戦略目標は「イスラム国打倒」と明確である。国際社会に対し、一致した支持と協力を要請し、有志連合への参加を「世界に求める」と呼びかけた。軍事行動にサウジアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、カタールの5カ国を参加させたのもドクトリン通りである。

 問題は早々に米地上戦闘部隊を派遣しないことを明言し、「イスラム国」を打倒するには「一定の時間がかかる」と指摘したことだ。空爆を決める一方、「圧倒的な兵力を投入し、早期終結」の原則は早々に放棄してしまった。これで出口戦略は成り立つのだろうか。