山梨県の大月から車でしばらく山道を登ると、大菩薩連嶺や小金沢山を望む大自然の中に、東電の葛野川(かずのがわ)揚水式発電所がある。深い山に囲まれ、平和そうで、風光明媚な一帯だ。

 揚水式発電というのは、下のダムの水を上のダムに汲み上げておいて、いざ電力が必要というときにそれを流してドッと発電する。

 電気は貯めておけないため、原則として、今、必要な電気は、今、作るしかない。しかし水力電気だけは例外で、揚水という方法を使えば、水という形で貯めておくことができる。つまり、再エネ発電のうちで唯一、大容量の蓄電という機能を持つ有意義なエネルギーだ。

葛野川の揚水式発電所で自分の無知を思い知る

葛野川ダム(ウィキペディアより)

 以上が、葛野川発電所を見学するまでの私の知識のすべてであり、「水資源の豊富な日本のこと、頼もしい話ではないか!」と思っていた。

 葛野川発電所の下のダムと上のダムを繋ぐ水路は、8キロもの長いトンネルとなっており、発電所はそのちょうど真ん中辺りの地中500メートルのところだ。水路と並行して、人間や車両の通るトンネル、そして、ケーブル類の敷設されたトンネルもある。

 発電所に向かうトンネルの入り口は厳重な警戒だ。するすると鉄格子のような柵が開くと、前方の闇に向かって巨大な薄暗い坑道が延々と伸びている。映画の007に出てくる悪者の秘密基地に入っていくようでスリル満点だ。

 ところどころに灯りのついたトンネルを3キロ余り走ると、地下要塞さながらの巨大な空洞、つまり、発電所に到着する。ここでは3基の発電機が動いていて、そのうちの1基は、今年の6月に運転を開始した最新鋭だ。3基合わせて、最大120万kWの発電ができる大型発電所で、将来は4基で160万kWになる予定。

 電気の消費量というのは、刻一刻と変化する。特に、大都会の電力は1日のうちの変化が激しい。人口が密集しているうえに、昼夜の人口差が大きい。工場もあれば、電車も走り、巨大ビルも林立している。電気の需要は多く、しかも瞬時に変化する。

 だから、お天気や社会現象を見ながら、必要な電気の量を刻々と予測して、ちょうどそれだけの分を生産しなければいけない。少なすぎるのはもちろん、多すぎても場合によっては大規模停電が発生するという。

 東電の管轄では、その制御をしているのが本社の給電指令所で、ここから四六時中、あちこちの発電所に、稼働やら停止の指令が下される。