米国人の約3000万がいま、抗うつ薬を服用している。誇張ではない。

 3000万という数字は米国の人口(約3億1500万)を考慮すると、およそ10人に1人で、そこまでうつ病患者が多いのかと疑念を持たざるを得ない。

米国で最も人気のある薬、「プロザック」

 米国で最も読まれている健康雑誌「プリベンション(予防)」(月刊280万部)やニューヨーク・タイムズ紙も最近、3000万人という数字を使っている。服用者すべてがうつ病なのかと言うと、実はそうではない。カラクリは後述する。

 今回はまず、筆者の個人的な話から始めさせていただく。私は1982年から2007年まで米国の首都ワシントンに居住し、20年前に最初の妻(米国人)と出会った。つき合い始めてすぐに彼女が言った。

 「私はバイポラー2だから、気をつけた方がいい」

 バイポラー2というのは双極性障害(双極II型)のことで、以前は「躁うつ病」と呼ばれていた病気である。

 私はバイポラー2と聞いてもピンとこなかった。躁うつ病であると説明されたが彼女はいつ会っても明るく、気分の浮き沈みはほとんど確認できなかった。結婚後もうつ症状は見て取れず、強いて言えばいつも軽い躁状態にあった。

 バイポラー2というのは彼女が自分で下した診断なのだと思っていると、精神科医に診断された病名だという。ある日、仕事を突然解雇されて、うつ症状がやってきた。初めて見せる姿だった。

 米国では1988年に「プロザック」という抗うつ薬が市販され、彼女は私と出会う前にしばらく服用していた。副作用から危うく命を絶つような危機的な場面もあったことから、プロザックの服用は止めていた。

 プロザックは人気があり、1990年代半ばには1000万人以上に服用されるまでになった。製造元はイーライリリー・アンド・カンパニー社。うつ症状が和らぐことから「ハッピードラッグ」などと呼ばれている。