7月29日、ついに中国共産党は周永康・元政治局常務委員に対する「調査」が始まったと正式に発表した。本邦マスコミは、この事件を党内権力闘争の一環と捉え、習近平総書記の権力基盤の行方にばかり関心が向いている。
もちろん、元来天邪鬼の筆者の見立てはちょっと違う。例によって、今週も筆者の独断と偏見にしばらくの間、お付き合い願いたい。(文中敬称略)
なぜ今、周永康なのか
新華社の報道は素っ気ないものだった。中央規律検査委員会が周永康の「重大な規律違反」について「調査を開始した」と報じた以外、詳しい論評はなかった。
しかし、専門家が「重大な規律違反」と聞けば、それは汚職事件を意味する。これで周永康の政治生命はほぼ絶たれた、と考えてよいだろう。
本邦主要日刊紙の関連記事はなぜか似たり寄ったり。ここは失礼を省みず申し上げる。
各社で共産党内部事情を丹念に追ってきた優秀な中国専門記者たちは習近平、薄熙来、周永康、江沢民など実名を織り交ぜながら、党内権力闘争について、ここぞとばかり、書きまくっているような気がする。
具体的には次の通りだ。
●習主席、権力基盤固め(朝日)
●「反腐敗」で政敵排除、習氏に権力集中(読売)
●周永康氏の立件決定 習主席、権力固め(毎日)
●「危険分子」前例なき追及、習主席、台頭許さず(日経)
●【周永康氏失脚】 習氏、政敵“粛清”で崩れる党内バランス(産経)
●習氏、肥大する権力 周永康氏を汚職で取り調べ(東京)
ここで詳細をご紹介するスペースはない。周永康失脚が党内権力闘争の一環であることを否定するつもりもない。唯一、筆者が気になるのは、本件を権力闘争という視点のみから分析することが、「木を見て森」どころか、「枝を見て、森を見ない」分析の典型例にならないか、ということだけだ。
バランスの取れたワシントンポスト記事
この点、ワシントンポスト関連記事の方がはるかに面白かった。書いた記者はニューヨーク生まれの中国系米国人だと思う。周失脚を以前ならあり得ない汚職摘発と見る点は日本マスコミと変わらないが、事件の政治的背景を決めつけず、様々な見方をバランスよく紹介している点を筆者は特に評価している。