ベトナムが米国への接近を始めた。しかも、米国からの軍事的な支援を得ようとする動きである。米国側でもその動きに応じようとする構えが明らかとなってきた。
ベトナムと米国といえば、当然、ベトナム戦争が想起される。かつての敵同士だったこの両国が新たな絆を強めようとするのは、中国という新たな共通の脅威に立ち向かうためである。
周知のように、中国はこの5月、南シナ海のパラセル(西沙)諸島近くの海域で一方的に大規模な石油掘削作業を始めた。この海域はベトナムの排他的経済水域(EEZ)内部だった。国連海洋法では、EEZ内でのこの種の資源開発作業は沿岸国、つまりこの場合、ベトナムの了解を得なければならないとされている。しかもパラセル諸島はベトナムが長年、実効支配してきた実績があり、いまも領有権を主張している。だが中国は1974年に突然、軍事攻撃をかけて、パラセル駐在のベトナム軍(当時のベトナム共和国軍)を撃退し、強引に制圧したのだ。だからベトナムとしては、今回の中国の動きには二重三重の脅威や憤慨を感じるということとなる。
その結果、ベトナムは米国の助けを求めることとなった。
ベトナム新政権と距離を取っていた米国
国家同士の離合集散は国際政治の常とはいえ、ベトナムと米国が戦ったベトナム戦争の記憶はまだまだ両国だけでなく全世界に強く残っている。その戦争の歴史をざっと振り返ってみよう。
現在のベトナム社会主義共和国は、かつて現領土の北半分だけを支配し、南側に存在していたベトナム共和国の併合を図った。南が抵抗すると、北は軍事攻勢を推進し、南の要請を受けた米国が軍事介入した。米軍海兵隊第一陣が南ベトナムに上陸したのは1965年だった。
以来、一方は米軍と南ベトナム政府軍、片方は北ベトナム軍とその支援を受けた南ベトナム革命勢力という2つの陣営の間で激しい戦闘が展開された。