サッカーのワールドカップは終わった。宴のあと、ドイツ-ブラジル戦についての随感。
7月8日の夜、シュトゥットガルトは戒厳令の布かれた町のようだった。夜の9時半には、町はしんと静まり返り、車さえあまり走らなくなった。遅番の勤務時間を1時間縮めて夜9時に終了とした工場があった。生徒会が校長と交渉して、翌日の1時間目をカットにした学校もあった。すべては夜10時に始まるワールドカップの準決勝、対ブラジル戦のためだった。
テレビでは、8時過ぎからずっと、選手やスタジアムの様子を中継していた。ドイツ中の皆が、少し興奮していた。
スポーツ観戦の面白いところは、観戦者がチームの運命を自分に投影することだ。「ブラジルに勝たなければ、決勝に進めない」「ブラジルは、目の前に立ち塞がる高い壁だ」。ドイツ中が武者震いをしていた。目前に迫った戦いは、熾烈なものになるはずだった。
夜10時、開始のホイッスルが鳴った。そのときドイツでは、3257万人がテレビの前に座っていた。しかし、その11分後、ブラジルチームの混乱は始まった。
3点目が入った時、家で試合を見ていた私の耳に、町を走る車がクラクションを鳴らすのが聞こえてきた。遠くで爆竹の音も響いた。前半終了で5対0。すでに勝敗は決していた。ボクシングなら、ここでタオルが投げ入れられたことだろう。
それからあとの1時間余りは、泣いているブラジルのファンの映像が映るたびに、見ているほうが息苦しくなるような、重苦しい雰囲気に包まれた観戦となった。6点目と7点目が入った時、ドイツのイレブンさえ、心なしか、対戦相手に気を使っているように見えた。
ブラジルが、あそこまで惨憺たる負け方をするとは、誰が想像しただろう。まるで、大人と子供の試合を見ているようだった。7対1。ドイツは2002年のワールドカップで、サウジアラビアを相手に8対0で勝ったことがあった。ただ、今回はサッカーの王者、ブラジルが相手なのだ。7対1は、誰が見てもあり得ないスコアだった。
ワールドカップ開催前の混乱はいったん収まったが・・・
観戦者が、チームの運命を自分に投影するのは、ブラジル人も同じだ。いや、その度合いは、ドイツ人よりもずっと強いように思う。
ワールドカップの始まる前の何カ月間か、ブラジル人は、ストとデモに明け暮れていた。不十分な福祉、ずさんな教育制度、高い税金、犯罪の増加、インフレ、汚職と腐敗と公金横領、そして何より、強烈な貧富の差。