先週安倍晋三首相は日本経済改革のための「新しい成長戦略」を明らかにした。昨年国会で成長戦略が初めて公表された時、株式市場は下落し失望の意を示したが、今回は構造改革への首相の確固たる決意が世界にも伝わりつつある。

 アベノミクスが発表されてからまだ1年半しか経過していない。それにもかかわらず、国民経済の総需要に働きかけるその第1、第2の矢である大胆な金融政策、機動的な財政政策は着々と成功している。

 アベノミクスを政策の焦点とした選挙戦が始まった2012年11月には、国内総生産(GDP)のデフレギャップは3%の過剰設備があることを示していた。いまやGDPギャップはほとんどゼロに近づいている。民主党政権下では、有効求人求職比率が0.5を割っていたこともあったが、今や有効求人倍率は1.1倍に達し、日本経済は人手不足の経済となりつつある。

 経済が完全雇用、完全操業に近づくと、金融緩和は生産に効くよりもインフレを招きやすくなるし、財政支出も供給制約に妨げられてGDPを増やせなくなる。需要喚起の政策である第1の矢、第2の矢の効果はその成功の故に鈍化するのである。今こそ、まさに供給自体を増やそうとする第3の矢の成長戦略が重要となる。

民間企業の自助の活力に依存する成長戦略

 成長戦略と言うと、政府が有望産業を選んで補助を加えて輸出産業に育てた昔の「産業政策」を思い起こす人もいるかもしれないが、日本企業が世界の技術のフロンティアにある現在、政府が有望産業を選ぶ能力があるわけでなく、成長戦略は民間企業の自助の活力に依存するしかない。

 新しい成長戦略には数多くの政策案が詰まっている。雇用市場の規制緩和、女性労働の活用、外国人労働者の受け入れ緩和、(妥結後の)環太平洋経済連携協定(TPP)による貿易障壁の軽減、特区の活用、法人税の軽減などである。市場機能を活用し、民間のインセンティブを最大限に利用するために、規制や貿易障壁の緩和と企業の税負担の軽減などが成長戦略の要となる。

 さて、必要な規制緩和を実現するには公務員の力を借りなければならない。ところが、公務員には、規制の存在で権威を保ち、権益を享受している者もいる。そこで、公務員を用いて行政改革を行うことには困難が伴う。郵政改革が難しかったはそのためである。これは、日本だけのことではない。バラク・オバマ大統領がTPPの妥結について与党民主党の反対でてこずり、移民法案を共和党の反対で通せないのも同じ理由による。

 成長戦略のリストを見ていたら、ハーバードのマーティン・フェルドシュタイン教授(元大統領諮問委員長)のやや挑戦的な口調を思い出した。「第3の矢としていろいろ書いてあるが、コーイチ、1つだけでいいから成長戦略でこれだけは成功したという事例を挙げてほしい」。そこで、本稿では「法人税改革」に絞って、それが実現した暁には必ず成長戦略に役立つことを示したいと思う。