FIFAワールドカップ・ブラジル大会がいよいよ始まる。インフラ整備の遅れ、大会への巨額投資への抗議デモ、賃上げ要求ストなどなど、懸念されることは数々あるが、優勝5回のサッカー王国での64年ぶりの祭典で、近年、長足の経済発展を遂げたこの国の現実をじっくり見せていただくことにしよう。

初戦相手のコートジボワールと言えば「カカオ」

コートジボワール南部の大都市アビジャンの高層ビル

 こうした開催国の現実のみならず、普段、気にかけることもない国や地域が、応援するチームの対戦相手となることで「身近」に感じられるのも、大きな国際大会ならでは。改めてその国を知ろうという動機ともなる。

 今回、1次リーグで日本が戦う相手は、どこも現代社会が抱える歪みに翻弄され続けてきた国。その国情をざっと眺めてみることにしよう。

 初戦の相手、コートジボワールは、以前は直訳して「象牙海岸」と呼ばれていた地域。近くに「黄金海岸」「奴隷海岸」「穀物海岸」といった、かつての「商品」名を冠した地名が並ぶが、現在、国名となっているのはここだけ。現在の主力商品はカカオである。

 「アフリカの年」と呼ばれる1960年、独立を果たしたコートジボワールは、「象牙の奇跡」「西アフリカの日本」とも形容される急速な経済発展を遂げ、やがて、不足がちの労働力を貧困に喘ぐ北の隣国ブルキナファソやマリなどに頼るまでになった。

 独立以来大統領の座にあるフェリックス・ウフェボワニにより設けられた「安定化基金」で、カカオ農家の収入も保障されていた。

 しかし、1980年代半ば、世界的に供給過剰となったカカオの国際価格は急落。大量在庫を抱えた政府は安価で放出することになり、大損害を被ってしまう。そして、国際機関からの民営化圧力に屈するように安定化基金は消滅。

 以後、グローバル世界に組み込まれ投機筋の餌食となったカカオ市場は乱高下を繰り返し、農家は生活設計さえ描けなくなっていく。カカオに大きく依存していた「象牙の奇跡」はここに終わりを告げる。

 1993年、ウフェボワニ大統領が急死。あとを受けたコナン・ベディエ暫定大統領は、大統領選に向け、コートジボワール人のみが候補となれる「イボワリテ政策」を打ち出した。

 ブルキナファソ人の血が流れるとされた対抗馬アラサン・ワタラ候補(現在の大統領)は排除。ナショナリズムを煽り、経済不振の責任を押し付けられた移民たちは路頭に迷い、働き手を失ったカカオ農園はさらなる経営難に陥った。