21世紀の最重要なコモディティは石油ではなく水――。
すでに何年も前から語られていることである。上水道をそのまま飲める日本では、水のありがたみが欠けると言われる。それだけに、これまで他国の水事情にも疎い傾向があった。
世界の水市場は110兆円に
今後、世界の人口は増え続け、2030年までに水の需要は今よりも40%も増加すると推測されている。降雨量の多い日本は水を当たり前のように自給自足できるが、途上国を中心に、世界ではいかに水を確保するかが官民あげての課題だ。
別の角度から眺めると、それは今後のコモディティの覇権(水利権)を握るカギと言える。世界の水市場は25年には約110兆円にまで成長すると見込まれており、近年は日本企業も世界の水利権の争奪戦に関与し始めている。
脱塩化工場の建設などだけでなく、浄水、排水・給水、排水処理など、水事業の総合マネジメントをするようにもなってきている。例えば日立製作所はイラクのバスラに脱塩化工場を建設し、今後は1日約20万立方メートル(約50万人分)の水道水を供給するという。
技術面では日東電工の開発した水の分子だけを通す逆浸透膜などが世界で高い評価を受けている。商社も水メジャーを目指す動きを活発化させている。
しかし世界の水事業は今、ヨーロッパの水メジャーに席巻されているのが現実だ。フランスのヴェオリア・エンバイロメントとGDFスエズの両社は世界に君臨する2大メジャーである。さらに英テムズ・ウォーターも存在感が大きい。
そうした民間の水事業に勢いがあるのは、フランス・英国両国が公益事業を民間委託してきた長い歴史があるからだ。フランスではナポレオン時代に官から民への事業委託が行われていた。英国でもサッチャー政権時代に、10カ所あった水道事業の流通管理局を民営化させている。
それでは米国企業はどうなのか。世界の水市場において、米企業は英仏に押されていたが、21世紀に入ってからは米国流のやり方を推し進めている。
首都ワシントンにあるシンクタンク「センター・フォー・パブリック・インテグリティー(CPI)」の調査によると、米国企業を中心に、飲料水が乏しい中東諸国を対象に今後1兆ドル(約101兆円)の投資が見込まれるという。さらに水事業の覇権争いが途上国を中心に繰り広げられると予測する。