金賢姫元北朝鮮工作員の来日は、新たな拉致被害者情報は何も得られずに終わった。さらには、経費のかさむヘリコプターでの移動が「金元工作員の観光希望に応えたものでもあった」と言う中井洽・国家公安委員会委員長の“温情発言”まで飛び出す始末。

金賢姫が大韓航空機を爆破した時代とは

 いったい何のために今急に金・元死刑囚を日本に呼んだのか、政府の判断には疑問符がつく。唯一の大きな成果と言えば、大韓航空機爆破事件の衝撃を多くの日本人の脳裏に甦らせたことであろうか。

 事件の起きた1987年は、83年の「ガルフエア771便」、85年の「エアインディア182便」と航空機爆破事件が相次ぎ、日本航空123便が御巣鷹山に墜落した記憶がまだ消えない時であり、航空機というものの怖さを改めて思い知らされた。

 さらに翌1988年12月には、米国人を中心に270人もの犠牲者を出した英国・スコットランド、ロッカビー上空でパンナム機爆破事件が起きる。欧米人にとってはアジアの片隅で起きた大韓航空機爆破事件よりも大きな衝撃を与えた。

 その爆破実行犯とされるアブデルバセト・アル-メグラヒは、2009年8月20日、服役中のスコットランドの刑務所から末期癌ということで故郷リビアに“温情”帰国を果たす。

 その当時からバーターとなる裏取引の存在が疑われていたが、国際石油資本BP社がメキシコ湾で原油流出事故を起こし米国民の怒りを買ってからは、さらに憶測が憶測を呼ぶことになる。

リビアの採掘権欲しさに犯人を釈放?

 「BP社がリビアで原油採掘権を獲得するために犯人を釈放したのでは?」というのだ。英国で政権を握ったばかりのデビッド・キャメロン首相がその否定に躍起になっている。

リビアの街はカダフィ大佐の写真で溢れている

 長い間反米の旗頭であったリビアの最高指導者、ムアンマル・アル-カザーフィー(カダフィ大佐)は、9・11同時多発テロ以降の社会情勢の劇的変化と相次ぐ制裁による窮地から、大量破壊兵器開発計画とテロの放棄を宣言。

 このロッカビー事件へのリビアの関与も認めることで米国のテロ支援国家指定が解除されたのが、2006年のことだった。

 翌年行われたトニー・ブレア前英国首相との会談の後、BP社がリビアの油田採掘契約を締結していたのである。