コーネリウス・グルリット氏が亡くなった。戦後何十年も、この世から失われたと信じられていた1400点もの名画とともに、ミュンヘンの高級マンションの1室で人知れず暮らしていた男性だ。
享年81歳。彼が共に暮らしていたその絵画には、ナチがユダヤ人から奪ったもの、あるいは、退廃芸術として没収されたまま行方知れずになっていたものが多く含まれていた。
1400億円相当の名画発見は極秘にされていた
とにかく、この絵画の出現は青天の霹靂で、同時に、ドイツの芸術界における戦後最大のセンセーションであったとも言える。発見の経緯は去年11月にすでに書いたが、簡単に繰り返す。
まず、話の発端は2010年9月に遡る。グルリット氏は、スイスからミュンヘンに向かう列車の中で、税関の抜き打ち検査に引っ掛かった。
ドイツでは、スイスの銀行にお金を預けて脱税している金持ちや、マネーロンダリングの犯罪者の摘発のため、国境でしばしば現金所持の検査をしていることは、先々週、やはりこのコラムで書いた。
ただ、この時グルリット氏は、ベルンで絵画を1点売却したと説明している。絵を売ることは違法ではない。しかも、所持していたのは9000ユーロ(120万円あまり)で、届け出の必要な額に達していなかった。しかし、税関は、その後も彼をマークしていたようだ。
そして2012年の春、家宅捜索の令状が出て、ミュンヘンの彼のマンションで、前述の未曾有の大発見となる。
鎧戸が下ろされたままの部屋から出てきたのは、ピカソ、ルノアール、クールベ、マティス、トゥールーズ-ロートレック、マルク、マッケ、ノルデ、ココシュカ、キルヒナー、さらに、ディックス、シャガールと、目を疑いたくなるような品ぞろい。さらにデューラー(1471‐1528)、カナレット(1697‐1768)といった古典も見つかった。推定価値は10億ユーロ(1400億円)。
州から絵の鑑定を依頼されているベルリン自由大学の美術史研究家によれば、見つかった作品はすべて本物で、しかも、汚れているものはあるが、損傷しているものは無く、良好な保存状態であったという。