米国の安全保障分野の碩学であるジョン・ミアシャイマーが、2月末、ナショナル・インタレスト紙に寄稿した「台湾にさよならを(“Say Goodbye to Taiwan”)」という短い論文は、東アジアの安全保障を考えている人々に大きな衝撃を与えた。
その要旨は明快だ。将来、中国の軍事力が増大する結果、もはや中国のパワーに台湾は抗しきれず、遠からず中国の一部とならざるを得ない、という冷徹かつ現実的な戦略家の議論である。
ところが、この論考が論壇を賑わした直後に、台湾では、中台間の貿易サービス協定に反対した学生たちが、台湾の国会を23日にわたって占拠するという大事件が発生したことは、すでに御存じの通りである。中国の台頭の最前線にある台湾の若者が、これ以上の中台間の経済的接近に警笛を鳴らしたわけである。
台湾では、そもそも多くの若者が、職にあぶれて不満を募らせていたという背景があるにせよ、台湾で台中間の経済の緊密化に反する動きが出てきていることは、ミアシャイマーが見通す未来を拒む、別の現実が、東アジアに出現してきているという兆しとも言えよう。
そこで本稿では、台湾をめぐる安全保障の現実を考えてみたい。それも小説を舞台にして。なにしろ、ゴールデンウイーク後半の読書にふさわしい、お薦めの小説があるからだ。CIAの現役分析官マーク・ヘンショウが著した台湾をめぐる近未来小説『レッドセル─CIA特別分析室─』である。
「ちっぽけな島、金門島」
この場を借りて、簡単に紹介させていただこう。主人公は、キーラ・ストライカーというCIAで現場のオペレーションを担っていたブロンドの女性だ。彼女は、ある日、「レッドセル」と呼ばれるCIAの秘密の分析部局に配属される。彼女は、突然の職場の変化に戸惑いながらも、突如発生した台湾に対する中国による侵攻をめぐるインテリジェンスの謎の究明にあたることになるのである。