今年3月26日に黄海上で韓国海軍哨戒艦「天安」が爆発沈没した事件の、その後の展開を見ていてふと気づいた。これはいつか見たような光景ではないかと。(敬称略)
1. デジャヴュ(既視感)
デジャヴュというフランス語(英語読みだとデジャブ)がある。ある光景を見ていて、それを前にも見たことがあると錯覚する現象である。
私の脳裏に浮かんだのは、今から約100年以上も前に起こった閔妃暗殺事件(1895年10月8日)だった。まさにデジャヴュである。
日清戦争(1894~95)に勝利した日本は、朝鮮半島における地歩を固め、李氏朝鮮を事実上の支配下に置くようになった。
日本の勢力拡大を憂慮した李氏朝鮮第26代王・高宗の妃であった閔妃――微妙なバランス感覚による外交手腕に優れていた――は、ロシア公使のウエーベルに接近し、ロシアの力を借りて日本を掣肘しようとした。
1895年10月8日、何者かによって閔妃は景福宮で殺害され、遺体も焼却された。
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朝鮮の親ロ化によって日本の影響力が低下することを恐れた日本公使・三浦梧楼(長州出身の陸軍中将)が暗殺を首謀したという嫌疑がかけられた。三浦は召還され裁判にかけられたが、証拠不十分で免訴・釈放された。
当事、朝鮮においては、国王の実父で日本と手を結ぶ大院君と、ロシアと連携する高宗・閔妃・閔氏一族が権力闘争を繰り広げていた。
今日においても同様に、朝鮮半島においては半世紀以上にわたり南北が厳しい対立を続け、北は中国・ロシアと、韓国は米国と同盟関係にある。
「天安」の爆発・沈没事件においては、南北の当事国よりも米中が前面に出て、国連の場でそれぞれの陣営に有利な解決に向け工作を繰り広げた。その構図は、閔妃殺害の頃と酷似している。