2013年3月20日、黒田東彦氏が日本銀行の総裁に就任した。安倍晋三首相の「今までとは次元の違う金融緩和をしてほしい」という要請を受けて、彼が発表した「マネタリーベース(日銀の発行する通貨)を2年で2倍にする」という「量的・質的緩和」は、まさに異次元の金融政策として市場に衝撃を与えた。

 それから1年。異次元緩和は何を変え、何を変えなかったのだろうか。ここでは黒田日銀の1年をデータで振り返ってみよう。

株価は「リーマン・ショック前」に戻った

 この1年で最も目立った変化は、株価が上がったことだ。図1のように、日経平均株価は、黒田氏が就任したときの1万2000円台から、昨年末には1万6000円台に乗せた。

図1 GDPと為替と株価(出所:内閣府ほか)

 株価上昇は安倍首相が就任した2012年末から始まっていたが、それから1年で「リーマン・ショック」前の2007年末の水準に戻した。これはドル/円レートとほぼ連動して動いており、円安が株高の原因だったことが分かる。

 しかし今年に入ってから日経平均は下がり、1万4000円台になった。そして昨年末までドル/円と連動していた株価が、今年に入ってあまり連動しなくなった。ドルは101~104円のレンジを上下しているが、株価は一本調子で下げている。

 これは当初の「量的緩和→円安→製造業の業績回復」という予想に反して、貿易赤字が史上最悪になったことが影響しているのだろう。確かにトヨタ自動車やホンダなど一部の輸出企業は史上最高益を更新する勢いだが、原発を停止されたままの電力は巨額の赤字にあえいでいる。

 大きな違いは、今まで円安で業績が回復した電機の収益が悪化したことだ。これは電機産業がすでに輸入産業だからである。資本主義のグローバル化で、黒田氏の期待した「円安で景気回復」というメカニズムは働かず、むしろ貿易赤字が増えて円安は日本経済にマイナスになってしまった。

 ただ2012年までの日本の株価は大幅な過小評価であり、これがリーマン・ショック前に戻ったのは、日銀の大胆な金融緩和の心理的効果も大きい。この点では、異次元緩和は合格点と言えよう。