そのヤツェニュクは、現在、暫定政府の首相、そして、大統領に収まったのは、やはりティモシェンコの信頼を得ているオレクサンドル・トルチノフだ。ただ、国民がティモシェンコを支持しているかというと、それも一枚岩ではないらしく、状況は複雑である。
いずれにしても確かなのは、これで民主主義政権ができたわけではないということだ。
美人のティモシェンコは、失脚したヤヌコーヴィチに優るとも劣らない悪評の高い人物。貧しい環境で育った彼女は、89年、ペレストロイカで起業が可能になると、夫とビデオ屋を始める。そこで、不法コピーを密造し大儲け。そのあと本格的に事業に乗り出し、石油・エネルギー関係の会社を設立して、とんとん拍子に財を成した。
政治に参加したのは1996年からだが、2007年の彼女の資産は、数億ドルと推定されている。ただし、その間、脱税、文書偽造で2度逮捕され、ロシアでも起訴されている。当時の裁判の様子が映像に残っているが、セミロングの漆黒の髪(のちに金髪)が神秘的で、容疑者というよりも、深窓の令嬢の輝きだった。
しかし、美しさと相まって、タフな心臓は権力とお金に飢えて心臓がどくどくと脈打っているように見える。現在は、監獄で傷めた腰の治療のためと称して、ベルリンにいる。ドイツ政府が援助していることは間違いないが、とにかく戦う人生。
米・露・EUそれぞれの思惑
シュピーゲル誌の報道するところによると、メルケル政権は、ウクライナの暫定政権のクオリティーについて、非常に懐疑的だという。また、他の報道によれば、ウクライナ新政権は、失脚したヤヌコーヴィチ政権に優るとも劣らない腐敗度で、スタンスはEU寄りと言われながら、実は民主主義とはあまり関係なく、極右集団だとか。
暫定政権の実態は、ティモシェンコの「祖国」党、クリチコの「一撃」(ボクサーの党なので)、スヴォボダ「自由」の集合体で、新内閣にはスヴォボダから2名の大臣(環境相、農業相)が選ばれているが、残りは「祖国」が占める。クリチコの「一撃」は内閣登壇を拒否したと言われているが、外されたのかもしれない。
そして、極右と言われる「スヴォボダ」を支援しているのは、ウクライナ最大の銀行のオーナーであるイゴール・コロモイスキーで、彼はヨーロッパユダヤ人会議のトップだ。
そうこうしている間に、クリミアがウクライナから離脱しようとしている。キエフで始まった政治闘争は、ここに至って、ロシアも含めた地政学上の闘争に変質してしまったわけだ。