ドイツのニュースは、今、ウクライナ一色だ。首都キエフで大々的な反政府デモが始まったのは去年の12月。直接のきっかけは、その前月11月に、親ロシアのヤヌコーヴィチ前政権がEU加盟の条件となる協定の署名を見送ったことだった。
デモはヤヌコーヴィチ政権を打倒するためのもので、先頭に立っていたのがヴィタリ・クリチコ。ボクシングのヘビー級の元世界チャンピオンだ。
ウクライナの12月というと、ひどく寒い。にらみ合うデモ隊と機動隊のヘルメットや肩の上に、あっという間に雪が積もる。もちろん氷点下2ケタの気温で、見ているだけでも足が凍てつく感じだ。
美人のティモシェンコも悪評高い人物
ドイツ人は民主化という言葉に弱いので、メディアは、雪の舞う中で群衆に向かって悲壮な演説を続けるクリチコの姿を、毎日、英雄のように放映した。確かに、逞しく凛々しいクリチコの姿は絵になった。
そんなことが連日繰り返されるうち、膠着状態は次第に騒乱状態に移行し、死者の出る事態となった。そして、ついにヤヌコーヴィチ大統領が持ちこたえられず、国外に逃亡し、議会によって大統領を解任されたのが2月22日。そして、それ以後起こっていることは、私たちにはよく分からない。
まず、英雄であったはずの元ボクサーのクリチコが、あっという間に蚊帳の外に放り出された。
新政府を樹立するために現れたのは、ヤヌコーヴィチが監獄に追いやった美人政治家ティモシェンコ。金髪の太い三つ編みを頭にぐるりと巻いたティモシェンコは「祖国」党の党首で、ヤヌコーヴィチが失脚した途端、瞬く間に刑務所から出てきて、渦中の人となった。
それにしても、日本やドイツでは、政権が代わったからといって、大統領が国外に逃亡したり、刑務所に入ったり、出たりする必要はない。ウクライナは、その点では中国や韓国と似ている。
いずれにしても、ティモシェンコが刑務所から出てきた途端に、監獄の彼女をずっと支援していたヤツェニュクも、冷凍庫のような酷寒の中、抗議デモを率いていたクリチコも、あっという間に人気をさらわれてしまった。彼女のカリスマは凄い。