3月12日、安倍晋三首相の特命で、元外務次官の谷内正太郎・国家安全保障局長がロシアを訪問した。

 ラブロフ外相やパトルシェフ安全保障会議書記らとウクライナ情勢について協議するが、要するに、ウクライナ危機で欧米主要国とロシアの対立が深まるなか、北方領土問題交渉の継続のため、日露間で意思疎通をはかっておきたいとの目論見であろう。

「プーチン詣で」を繰り返す安倍首相

 とにかく、このところの安倍政権の「媚ロシア」外交が際立っている。

 まずは2014年2月のソチ五輪開会式に際し、欧米主要国の首脳たちが、プーチン政権の人権問題に抗議して軒並み出席を取りやめたなか、西側主要国ではイタリアのレッタ首相と日本の安倍首相だけが出席した。

 開会式には他にも約40カ国の首脳が参列したが、その他の顔ぶれを見ると、中国の習近平・国家主席、北朝鮮の金永南・最高人民会議常任委員会委員長、トルコのエルドアン首相、アフガニスタンのカルザイ大統領など、ソフトな民主主義政治家とはとても言えないような人物ばかり。そんな中に、従来は対米協調を基軸としてきた日本の首相が並ぶというのは、国際政治の常識からしても、かなり異様な光景だった。

 欧米主要国の首脳が欠席した理由は、直接的には、ロシアで2013年に成立した同性愛宣伝禁止法への抗議ということだが、その根底には、自国メディアを牛耳り、国内の反対派を弾圧するプーチン政権の強権体質に対する不信感と反発がある。

 さらに、中東シリアの内戦に際してロシア政府が、自国民の殺戮を続けているシリア独裁政権を擁護し、国連安保理の拒否権を濫用して国際社会の介入をことごとく妨害してきたことも、欧米主要国からすれば敵対行為にほかならなかった。要するに、ロシアは旧・西側にとって、再び手強い“敵”になりつつあったわけである。