前回(「住民3万人の健康被害を20年追跡した疫学者」)に続いて、1979年にメルトダウン事故を起こしたアメリカ・スリーマイル島(TMI)原発からの現地取材報告を続ける。同原発周辺の住民3万2000人の追跡調査を20年間続けている地元ピッツバーグ大学公衆衛生大学院の疫学者エブリン・タルボット教授の調査結果の2回目である。

 同大学は、ペンシルベニア州政府が事故直後に行った半径5マイル(8キロ)以内の住民3万2000人のデータをそのまま引き継ぎ、モニターを続けている。これは福島第一原発事故での被曝者23万人のおよそ7~8分の1の規模である。放射性物質の総放出量も、福島第一原発事故の10分の1ほどの大きさだ。

 調査対象になった病気は、以下の通り。

・悪性新生物すべて
・気管支、気管、肺のがん
・リンパ細胞・造血細胞のがん
・中枢神経のがん
・すべての心臓病

 20年間の調査結果は2003年に発表された。それによると、ガンマ線被曝最大値が上昇すると、リンパ細胞・造血細胞がんの発生率も大きく上昇する。女性では乳がんの死亡率上昇が認められるなど、一部のがんと被曝量の間に関係があることが統計上分かってきた。

注目すべき「心臓病」の増加

 タルボット教授の調べた統計の詳細について見ていこう。

 調査期間は事故のあった1979年から98年まで。対象になった原発周辺の住民3万2000人のうち、生存しているのは2万5201人(男性1万2516人、女性1万2685人)である。5516人が亡くなった。調査は全住民の97%を網羅している。