ドイツの再生可能エネルギー法は失敗だったのか?

科学的視点に欠けた脱原発推進がもたらす矛盾が次々表面化

2014.03.12(水) 川口マーン 惠美
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 シュレーダー氏は脱原発の先鋒であり、2000年、彼の政権下、政府は電力大手4社との間に、脱原発合意を結んでいる。

 これは、稼働中の全原発を一定の量の発電を終えたら廃炉にすること、そして、新しい原発は造らないということを取り決めたもので、2002年の原子力法改正により、法的にも効力を持った。これによりドイツは、どの原発も、それ以後の稼働年数が32年を過ぎた時点で停止することを決めたのであった。

 ところが2010年、メルケル政権がその脱原発の期限を延長した。そして、電力会社は、稼働年数を延長してもらった代わりに、核燃料税という税金を支払うことが取り決められた。そしてこの時、ドイツ国民の間で、期限延長という反則に対して思いも掛けぬほどの非難が巻き起こった。これほどまでの国民の怒りは、おそらくメルケル首相の予想外であったと思われる。

 その後、すぐに福島の事故が起こった。これを機にメルケル首相は、突然180度意見を変えて、2022年までに脱原発ということを決めた。驚いた電力会社は、当然のことながら、核燃料税の支払いを拒否した。しかし、政府はそれを認めない。これが今、裁判沙汰となっている。

原子力や電力の専門家抜きに推進された脱原発計画

 いずれにしても、2022年まであと8年しかない。そして、8年では片付かない問題が山のように積み上がっている。

 そこでシュレーダー氏は言うのだ。なぜ2022年までなどという無謀なことを決めたのかと。「延長した分だけを取り下げて、元々決まっていた通り、32年で停止にしておけば、何の問題もなかっただろう。電力会社も32年での脱原発にはすでに合意していたのだから、裁判にする理由もなかった」

 なぜ、2022年などという無謀なことを決めたのかということについては分からないが、なぜ、このような無謀な意見が出たのかということだけは分かる。

 当時、メルケル政権が脱原発についての意見を求めるために設置したのは、「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」であった。元来、倫理委員会の役目とは、「科学と倫理のバランス」をチェックすることだ。例えば医学など、科学技術が道徳や倫理に抵触する可能性がある場合に招集される。

 委員会のメンバーは学識経験者や知識人。ヒトラー時代のドイツで、医学や科学が非人間的な行為に走ったことへの反省である。

 脱原発への意見を求めるのに倫理委員会が召集されたことは、科学的な視点が軽視された実態を如実に証明している。倫理委員会のメンバーは、社会学者や哲学者などのほかに聖職者が3人、委員長は元環境大臣と金属工学が専門の教授。

 原子力の専門家も、電力会社の代表も召喚されていなかったのである。原子力についても、電力供給についても、基本的なことすら知らない人間が、脱原発を推進したのだった。

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川口マーン 惠美 Emi Kawaguchi-Mahn

 

大阪生まれ。日本大学芸術学部音楽学科卒業。

85年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。シュトゥットガルト在住。

 

90年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓。その鋭い批判精神が高く評価される。『国際結婚ナイショ話』、『ドレスデン逍遥』(ともに草思社)、『母親に向かない人の子育て術』(文春新書)など著書多数。最新刊『サービスできないドイツ人、主張できない日本人』(草思社)好評発売中。ドイツから見た日本、世界をレポートする。

 

2011年4月より、拓殖大学 日本文化研究所 客員教授

欧州

欧州は観光ばかりでなく農業や地方の活性化、また少子高齢化対策などでも日本が学ぶべき点が多い。日本が課題とするこうした点を欧州ではどのように克服しようとしているのかの実例をお送りする。また、欧州で高く評価される日本の芸術・文化などのソフトパワーについてレポートする。

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