第1回大学対抗カンボジアロボットコンテスト(以下、ロボコン)まで、残すところ1カ月余りに迫った2月24日の朝。私は、アシスタントのラシーを伴って、プノンペン国際空港に向かった。そう、あのタイの放送局MCOTのジョッキーさんとニンさんがここ、プノンペンにやって来るのである!

 カンボジアの関係者の中でロボコンを知っているのは、国営テレビ局の副局長である“松平の殿様”だけと言っていい。しかし、“殿様”と私を含め誰もその制作・運営に携わったことがあるわけではないから、本当のところはどんなことが起こり得るのか、全く想像がつかない。

 ジョッキーさんは、アジア太平洋放送連合(以下ABU)が主催するアジア地域のロボコンがスタートした2002年からもう10年以上、タイの国内大会と、ABUロボコンに携わっている。だから、大会運営とテレビ番組の制作の仕方について、知り尽くしていると言っても過言ではない(ABUとABUロボコンについては連載第2回参照)。

 今回の訪問で、これから先1カ月間でどのような準備をすればよいか、きっと私たちの気づかないいろいろなことをアドバイスしてくれるものと期待していた。

タイとカンボジアが「近くて遠い国」である理由

 ジョッキーさんたちを乗せた飛行機が到着して程なく、彼らは入国審査を終えて、到着出口からいつものにこやかな笑顔で登場。バンコクでのロボット制作用パーツ調達以来、1週間ぶりの再会である。

 空港からホテルに向かう道すがら興味深そうに町並みを見つめる2人。聞けば、彼らがプノンペンにやって来るのは初めてなのだと言う。バンコクからプノンペンは直線距離にして600キロ余り、東京−大阪間よりわずかに遠いぐらいだ。それなのに、2国の間には目に見えない壁がある。

 歴史的な問題もあり、カンボジアはASEAN諸国の中で、経済的に最も脆弱な国の1つだ。一方のタイは、ASEAN諸国内の「大国」である。さらにカンボジアとタイの間には国境紛争が絶えない時期が長くあった。

 だから、カンボジアの人々が、タイの人々に100%友好的な感情を持っているわけではなさそうなのは、私も感じていた。

 そうしたタイ人から、ロボコンの指導を受けることに対して、カンボジア人がどう感じるのかが、私にとっては少なからぬ懸念材料ではあった。しかし、私が伴ったアシスタントのラシーは、2人と本当に楽しそうに会話している。