ウクライナ情勢が急展開している。3月2日までに、ロシア軍はクリミア自治共和国(ウクライナ共和国内の自治共和国)をほぼ掌握した。

 人口でロシア系が多数(約6割)を占めるクリミアは、もともと住民に親ロシア派が多い。そのため今回のウクライナの政変でも、親ロシア派のヤヌコビッチ政権が打倒された後、親ロシア派陣営が素早く脱ウクライナに動いた。2月27日には首都シンフェロポリの議会と政府庁舎を占拠し、首相を解任。親ロシア派のセルゲイ・アクショノフが新首相に就任すると、3月1日にはロシアに治安維持のための支援を要請した。

 それに対し、ロシアのプーチン大統領は即座に支援を明言。ロシア軍介入の承認をロシア上院にはかり、上院もそれに合意した。黒海艦隊の本拠地であるクリミア半島を絶対に手放したくないロシアは、これでロシア系住民の保護を名目に軍事介入の姿勢を明らかにしたと言える。

ロシア軍が「制圧」したクリミア

 クリミアでは2月末までに、市内や幹線道路に親ロシア陣営の武装兵士が展開し、ラジオ・テレビ局、電話局、シンフェロポリ空港、ロシア海軍黒海艦隊司令部のあるスタブロポリ近郊のベルベク空港などの要所も、親ロシア派に制圧された。武装兵士は一部の民兵(おそらく軍のOBなどが中心)以外は自らの立場を明らかにしなかったが、地元の兵士の一部、内務省系の治安部隊のほか、偽装したロシア軍兵士も参加していた。

 また、黒海艦隊基地や他のロシア軍基地の外部では、ロシア軍部隊が基地の警備と称して広く展開した。

 3月2日には、ロシア軍歩兵部隊が、ウクライナ沿岸警備隊第36旅団のペレバルネ基地、海軍海兵隊のフェオドシヤ基地、対空ミサイル部隊のエフパトリア基地など、クリミア域内の主要なウクライナ軍基地を包囲。ウクライナ軍部隊は無抵抗のままロシア軍の管理下に下った。結局、ロシア軍は1発の銃弾も発射することのないまま、クリミア半島全土を完全に制圧したのである。

 現地のウクライナ軍があっさりと事実上投降したのには、もともとクリミア半島にウクライナ独自の大きな戦力が配置されていなかったことがある。

 そもそもクリミア半島のウクライナ陸軍の歩兵は、全域を合わせても3500人程度にとどまる。いずれも戦車もない軽武装の部隊だ。また、ウクライナ海軍は小規模な艦艇部隊をセバストボリに配置しているが、ロシア海軍の強大な黒海艦隊沿岸警備部隊に容易に包囲されている。ウクライナ海軍は前出のフェオドシヤ基地に海軍海兵隊部隊も配置していたが、それも400人しかいない。

 また、ウクライナ空軍はベルベク空港にSU-27とMIG-29の飛行隊を配置しているが、空港は早々に親ロシア派に制圧されている。

 他方、ロシア軍はもとよりクリミア半島に大部隊を駐留させている。黒海艦隊司令部、海軍歩兵旅団司令部、沿岸ミサイル連隊×4個(基地も4カ所)のほか、海軍航空隊の数カ所の軍事空港や通信施設を含めて、12カ所以上の基地を配置しているのだ。黒海艦隊を中心に駐留兵力は2万数千人に及ぶが、そのうち陸上戦力の中核である歩兵部隊としては、第810海軍歩兵旅団の2500人の歩兵部隊と、他に数百人の海軍特殊部隊が配置されている。