フィリピンのマニラに来ている(2月14日記)。ベトナムに続いて、やはり南国はよいところだ。大雪の後の東京を後にして、ニノイ・アキノ国際空港に着くと、暖かな空気が身のまわりをふわりと包む。乾季のマニラは、本当にすごしやすい。
さて、今回は、南シナ海でそれほど強い海軍力や海上保安庁を有しないフィリピンが、どのようにして中国の海洋進出に対峙しようとしているのだろうかという疑問を抱きながらの旅である。
「フィリピンは、きっと困っているのだろう」、そう勝手に思いながら、フィリピンの知識人たちと会話を始めた。なにしろフィリピンでは、2012年4月すぎには、南シナ海にあるスカボロー礁の実質的な支配を中国に突如奪われ、今や、フィリピン人がアユンギン礁と呼ぶセコンド・トーマス礁すら中国の法執行船舶の定期的な監視を受けるようになっているからだ。
海上での衝突を徹底回避
そして、わずか1日で筆者が間違っていたことを知ることになった。認識の間違いは、すぐに改めればよい。古い知識は、新しい事態の出現ですぐに塗り替えられる。
実は、フィリピンは困ってなどいなかったのである。なぜなら、フィリピンは、フィリピンなりの「弱者の戦い」とでも呼べる戦術をしたたかに取っているからだ。
すなわち、フィリピンは、自らが不得手な分野での戦いはもうしないという判断をしたのである。それは、海上における力による衝突を回避するということである。
すなわち、2012年、スカボロー礁において、中国漁船を取り締まるためにフィリピン海軍船を派遣したことが、結果として中国側によるエスカレーションを招いたことをフィリピン政府は、よく理解している。その後、フィリピンは、自らの海軍艦艇を現場近くに近寄らせないこととしたのである。
さらに2013年5月には、不法操業を行っていた台湾の漁船に対して、「フィリピン・コースト・ガード」(PCG)が警告射撃を行った結果、死傷者が出るという不幸な事件が発生した。中国側はこの時期に前後して、フィリピンが実効支配しているアユンギン礁まで法執行船を派遣したのである。この事態を受けて、今や、フィリピン大統領府からの指示に基づいて、PCGすら現場にあえて監視船を派遣しないという方針を守ることとなっている。