昨年末の12月26日、安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。その約1カ月前、中国政府は防空識別圏を設定し、それが世界各国から否定的に受け止められ、日本との対比において中国の立場を悪くさせていた。

 そうした状況下、安倍首相が靖国参拝を行ったため、今度は米国、欧州等の批判の矛先が日本に向けられたのである。それまで分の悪かった中国政府にとっては救いの手が差し伸べられたようなありがたい出来事だった。

安倍首相の靖国参拝後に明らかになった政経分離の対日方針

 海外からの評価に配慮したのか、今回は中国政府が安倍首相の靖国参拝を厳しく非難しながらも、12年9月の尖閣問題発生直後に中国全土で見られたような反日デモ・暴動、日本製品ボイコットなどの反日行動を徹底的に制限した。

 当時の過激な反日行動は、海外の多くの国々がチャイナリスクの1つとして受け止めたほか、中国国内の有識者の間でも理性的ではないとする否定的な意見が多かった。そのような国内外の見方を踏まえ、今回は日本企業にダメージを与える反日行動を回避したと見られている。

 中国政府は経済面で、日本企業をターゲットとした過激な日本たたきを抑制する一方、政治・外交面ではメディアや世界各国の中国大使館等を活用して大々的に日本批判キャンペーンを繰り広げ、行政面でも日本政府との政府間交流を厳しく制限している。

 これは中国政府が日本に対して政経分離の方針を打ち出したことを明確に示している。

中国人富裕層の間で日本旅行ブームが過熱

 そんな中で、象徴的な出来事だったのは、1月31日から2月6日の春節(旧正月)の連休を利用して、上海、北京等の富裕層を中心に、非常に多くの中国人が日本旅行に殺到したことである。

 尖閣問題に際しては、その直後から日本向け観光旅行の催行を制限する措置が採られた。それが解除され、富士山周辺、京都、東京など中国人に人気のスポットに中国人の姿が戻ったのは昨年7月以降だった。

 今回の靖国参拝後も再び同様の渡航制限措置が採られてもおかしくなかったが、中国政府はその措置を採らなかった。

 そうした政策の変化もあって、この春節の連休期間中、中国人の富裕層の間では日本旅行ブームが過熱した。上海での一番人気は北海道、次いで九州、そして沖縄だ。特に人気の上海-札幌往復のチケットは入手難となり、1月にはエコノミーでも2万元(日本円で35万円相当)に達した。通常の約5倍という高騰ぶりである。