前回はフィリピン人向け通信サービスなどを提供するアイ・ピー・エス(本社・東京都中央区、IPS)による、外国人向け介護人材養成スクール「東京ケアギバー・アカデミー(TCA)」の取り組みなどについて伝えた(「深刻な人手不足の介護現場で評価が高いフィリピン人」)。

 そこでは、深刻な人手不足にあえぐ介護分野では外国人労働者の受け入れが必須である一方で、外国人労働者の受け入れ体制を整備する必要が指摘された。

 今回は、介護分野での就労を希望する外国人の実情に迫りたい。なぜ外国人は介護職を選ぶのだろうか。外国人と介護職とのつながりをリポートする。

シングルマザーとの出会いが転機となったアイ・ヘルパー・ジャパン

 外国人介護人材の育成を行う養成講座として、TCAとともに知られるのが、埼玉県川口市に本拠を置くアイ・ヘルパー・ジャパンの講座だ。

 JR西川口駅から歩いて数分のところにあるアイ・ヘルパー・ジャパンを訪れた。近くには住宅も多く、都心部のベッドタウンとなっている。

 同時に、川口市は外国人が集まるところでもある。法務省の「在留外国人統計」によると、川口市の2013年6月時点の在留外国人数は2万2287人で、埼玉県内の市町村では最大規模。このうちフィリピン人は2157人となっている。

 アイ・ヘルパー・ジャパンで迎えてくれたのは、代表を務める井上文二さん(56歳)。井上さんは、大学でスペイン語を学んだ後に日本の大手企業に入り、ビジネスのキャリアをスタートさせた。

アイ・ヘルパー・ジャパン代表の井上文二さん(筆者撮影)

 その後、40代になってから福祉の世界に転じる。それまでビジネスの世界にいながらも、「社会に役立つことをしたい」という思いをずっと持ち続けてきたといい、介護の世界に飛び込むのは自然の流れだったという。

 訪問した日は日曜日だったが、朝から受講希望者向けに講座の概要や介護について説明するセミナーが開催され、井上さんも講師として話をした。

 柔和でやさしい雰囲気の井上さんだが、介護と介護人材育成に関する話になると、真剣な表情で丁寧に説明してくれる。その語り口から、介護への情熱がひしひしと伝わってくる。

 アイ・ヘルパー・ジャパンはこれまでに、さまざまな国の出身者を受け入れてきた。外国人受講生はフィリピン人が多いものの、それ以外にも中国、ブラジル、ペルーなど様々だという。

 外国人を受け入れたきっかけは、あるフィリピン人女性との出会いだった。

 ある日、1人のフィリピン人女性が「ヘルパー2級の講座を受講したい」と訪問してきたのだ。当時、外国人の受け入れ経験はなかったが、高校時代に米国留学の経験があった井上さんは英語もでき、外国人と接することに戸惑いはなく、すぐに受け入れることにした。