ソチオリンピックまで1カ月を切った。こうした中で注目されているのが、その安全性である。
ロシア南部の都市ヴォルゴグラードで、昨年10月に1回、さらに12月末には2回連続で公共交通機関を狙った自爆テロが発生したことは日本でも大きく報じられたため、目にされた方は多いことと思う。
北カフカス地域の要衝で起きたテロ
問題は、それがヴォルゴグラードで発生したことである。
ヴォルゴグラードはチェチェンを含む北カフカス地域の北側に位置し、同地域への交通の要衝と位置づけられる。
グルジアに近い黒海沿岸のソチも北カフカス地域に含まれるうえ、同地域で活動するイスラム原理主義組織「カフカス首長国」の指導者ドク・ウマーロフが「あらゆる手段でオリンピックを妨害する」と述べていることもあって、今回のテロはオリンピックの安全性に大きな懸念を投げかけている。
もともとソチでのオリンピック開催は、長らく紛争の続いてきた同地域の安定化をアピールする側面があったただけに、イスラム原理主義組織としては格好の標的であり、逆にウラジーミル・プーチン政権としてはその威信に懸けて妨害を排除する必要がある。
もっとも、ソチから数百キロ離れたヴォルゴグラードが選ばれた点については、警備の厳しいソチそのものではなく、玄関口であるヴォルゴグラードを狙ったのだという解釈や、こちらは陽動に過ぎず、警備を分散させておいて「本丸」のソチを狙うのだという解釈など様々な考え方がロシアのメディアでは見られるようだ。
ただし、問題を「オリンピックの成否」に絞ってしまうと、全体を見失う恐れがある。
以前の小欄で、米軍のアフガニスタン撤退を前に、ロシア政府が自国および旧ソ連諸国内でのイスラム原理主義勢力のテロや武装蜂起に備えた国防体制の再編を進めていることをご紹介したが、現在のロシアで起こっていることは、これまで北カフカスに限られていた暴力が他地域にも拡散していく過程であるとも考えられるためだ。