クリンクル―。

 米西海岸シリコンバレーで今、「第2のフェイスブック」と注目されているIT企業である。これまでも数多くのIT企業が産声を上げたが、クリンクルは新しい製品(アプリ)を市場に出す前に2500万ドル(約25億円)という巨費のベンチャー・ファンドを集めた。投資家の中には英実業家リチャード・ブランソンさんも含まれる。

22歳の青年に25億円をぽんと投資

 創業者はスタンフォード大学コンピューター・サイエンス学部を今年卒業したばかりのルーカス・ダプラン氏。クリンクルのビジネス内容はスマホを使った新しい電子決済事業で、全貌はまだベールに包まれたままだ。

 それでも、このアプリの導入を待ってウェイティングリストに名を連ねている人たちは12万以上にも達する。それほど前評判が高い。

 22歳の青年に25億円の投資が集まるところにシリコンバレーの衰えぬ活力を見るが、本稿の焦点はそこではない。むしろ陽が当たらぬ部分だ。

 実は、明るい未来が約束されているかに見えるクリンクルだが、12月に入って社員の25%にあたる16人を解雇した。それだけではない。今春も31人の社員を解雇している。上昇気流に乗っているはずの新進企業が、である。もちろん新規株式公開(IPO)ははるか先だ。

 解雇された元社員の1人はネット上で「長時間労働を強いられたうえに、それに見合うものが支払われなかった。挙げ句の果てに解雇された」と不満を漏らした。人材がむしろ足りないと思われる時期の解雇はどういうことなのか。

 創業直後の企業は多忙を極めるのが普通だ。社員も寸暇を惜しんで仕事をせざるを得ない。それは国を問わない。

 今月の解雇について、会社側は「組織的な再編が必要でした。適材適所という言葉を実践しただけです。今回16人を解雇しましたが、ほとんどは一般事務と人事関係の人たちです」と、本業の分野ではないと説明した。

 社員からすれば、第2のフェイスブックと言われる企業に参画し、IPOまでは運命を共にしたいとの思いはあっただろう。しかし企業は無情にも解雇を繰り返す。実はシリコンバレーではこうした早期解雇が日常的になっている。