特定秘密情報は国民の日常生活に直接かつ即時的に影響を及ぼすというよりも、国家の安全保障や名誉と信頼など、例えば米国は尖閣諸島で日本をどのように支援してくれるか、中国の対日戦力展開能力はどの程度か、日本は同盟国や友好国に信頼される行動を取っているかというような次元のものが多いであろう。

 国際社会においては国益を求めて熾烈な情報戦が繰り広げられているが、日本に関わる情報の入手や保全においてやや無関心であった日本が、有り体に言えば「普通の国」への入り口に立ったということである。

 平時からどの国もそうした情報の入手や保全には格段の努力をしているが、一国では限界があり、相互にギブ・アンド・テイクして信頼性を高めるようにしている。入手手段や取得情報の一部がウィキリークスやエドワード・スノーデン氏によって暴露され、国家間の軋みが生じている現実を見せつけられたばかりである。

 こうした現実を直視することなく、特定秘密保護に反対したり難色を示したりするのは、例外中の例外国家・日本の平和ボケの所産でしかない。

秘密は在って当たり前

 大統領2期目にウォーターゲート事件で弾劾され辞職したリチャード・ニクソン大統領は『わが生涯の戦い』で、次のように書いている。

 「私の政府は、国家的安全という理由から盗聴を行う場合、注意深く限定された完全に合法的なやり方をしていた。こういうやり方をしたことを私は全く後悔していない。アメリカはベトナム戦争のさなかだった。また、われわれはソ連および中国との間で微妙な秘密外交を幅広く展開しつつあったし、インドシナで名誉ある和平を達成するための秘密交渉にも携わっていた。同時にわが国は、極秘情報が新聞にぼろぼろ漏れるというひどい事態に見舞われていた」

 米国ばかりでなく、また国家の大小などに関係なく、国益と名誉を保持するためには相手国の情報が不可欠である。人間二人寄れば競争し上下の差がつくように、国家間ではさらに熾烈な競争が行われている。

 現にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉では格段に規模の大きな米国でありながら、小国の国益すらもぎ取ろうとする飽くなき貪欲を示している。正しくガリバーと小人の物語そのものである。

 だから小国は小国なりにあらゆる手段で情報を取り、少しでも優位な立場に立とうとする。国家に秘密が存在するのは当然であり、それを保護する法律が必要になるのもまた然りである。

 自由や民主主義を価値観とする日本は、そうした価値観を守るため、あらゆる角度から国会の場で審議し、国民の了解を得て法律に仕上げなければならない。国会中継を見聞していても、法律条項のまともな議論をしないで、「危険だ」「反対だ」と声高に叫ぶばかりでは国民の期待にそえない。