7月11日に投開票が行われる参院選の選挙戦は、すでに終盤。マスコミ各社が報じる情勢は、「与党過半数微妙連立組み替え現実味」(7月5日 毎日)、「与党過半数割れ濃厚」(7月6日 産経)、「与党過半数厳しく」(7月7日 共同)といったものであり、菅内閣支持率の低下と連動して、与党民主党に逆風が吹いているようである。
菅直人首相は2日夜、仙谷由人官房長官、枝野幸男民主党幹事長らと参院選の情勢を分析。出席者の1人は「(情勢は)厳しい。国民新党がどれだけ取ってくれるかだ」と語り、国民新党との選挙協力による郵政票にも期待感を示した、という(7月2日 時事)。
与党は非改選が66議席(与党系無所属1を含む)なので、過半数122を確保するには民主党と国民新党の合計で56議席が必要である。しかし、与党の獲得議席予想は、毎日新聞の予測レンジが49~60議席(中央値55議席)。産経新聞の予測では51+0=51議席にとどまっている。参院選が終わった後に、政治が大きく動く可能性が潜在している。
民主党の獲得議席別にケース分けして、選挙後に何が起きるかを考えておきたい。少し前になるが、6月24日に読売新聞が掲載した内容を、表の形で整理してみた。
民主党の獲得議席数 | 民主党の獲得議席数 | |
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シナリオ(1) 「60以上」 | ・民主党が単独で過半数を確保する(1つの政党が参院で過半数を維持するのは1989年以来)。参院選大勝により、菅政権の基盤は安定し、9月に予定される民主党代表選での菅氏再選にも道が開ける。政策面でも、消費税増税など税制改革に追い風になることは間違いない。 ・国民新党は発言力低下を免れない。 |
・連立与党を過半数割れに追い込むと明言した谷垣自民党総裁は、与党が過半数を確保すれば、直ちに総裁辞任を表明せざるを得ないとの見方が強い。 |
シナリオ(2) 「56~59」 | ・国民新党や無所属議員を合わせた与党は過半数を維持し、政権はひとまず安定しそう。 ・国民新党の存在感は高まり、民主党は郵政改革法案成立を最優先に取り組まざるを得なくなる。 ・国民新党は消費税増税に慎重な立場だけに、税制改革を巡る与党内調整が難航することも予想され、新たな政界再編の契機になる可能性もある。 |
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シナリオ(3) 「54~55」 | ・国民新党の獲得議席がゼロならば、与党は過半数割れとなる。一方、菅首相が掲げた目標議席「54+α」はクリアするだけに、菅民主党にとっては勝敗を直ちに判断するのが難しい「グレーゾーン」といえる。この場合、菅首相の進退問題に発展するとの見方は少ないが、「党内における求心力低下は避けられない」(党中堅)と見られている。 ・その反面、政権や民主党は参院での法案処理を念頭に、国民新党にこれまで以上に配慮せざるを得なくなり、国民新党の発言力は高まりそうだ。 |
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シナリオ(4) 「50~53」 | ・菅首相が設定した勝敗ラインを割り込むだけに、首相の責任論が出るのは必至。 | ・民主党敗北の場合、参院で与党過半数割れによる衆参の「ねじれ」を解消するため、「第3極」新党への連立参加の呼びかけなど、民主党主導による多数派工作が激しくなり、政界再編が現実味を帯びることも予想される。 ・民主党内では小沢前幹事長の動向が焦点となりそう。参院選後、現政権や執行部への批判が強まれば、これを追い風に「復権」に向けて動き出す可能性がある。小沢氏は9月の代表選に照準を絞っているとされるが、過去、政党を渡り歩いてきた経緯があるだけに、執行部からは「民主党を飛び出したり、党を分裂させたりする可能性もある」と懸念する声も上がっている。 |
シナリオ(5) 「50未満」 | ・菅首相の退陣論も出て、政局は一気に流動化しそう。 |
出所:読売新聞6月24日朝刊をもとにみずほ証券金融市場調査部作成
選挙戦終盤の情勢に関する報道内容などからみて、シナリオ(1)と(2)については、現時点では、実現の可能性が低そうである。有力なのは、シナリオ(3)・(4)のいずれかであろう。シナリオ(5)についても、民主党の獲得議席予測レンジの下限が毎日新聞で49、産経新聞で48なので、排除することはできない。民主党幹部は「50議席を割るようだと選挙後、血みどろの政変になる」と、執行部批判を展開する小沢一郎前幹事長の動向を懸念している、という(7月7日 共同)。
シナリオ(3)~(5)に共通しているのは、国民新党や今後連立に参加する政党の発言力が増大すること、および政界再編の可能性である。